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九十五粒目『ザ・がまん』

今、振り返ってみるとめちゃくちゃなんやが。

子どもたち、いや、子どもたちだけに限らないのかな、
ひとは、本能の範囲をこえて、考えて、行動するから、
「天才と狂気は紙一重」というけれど、
すばらしいこともするし、あほなこともする。

だから、子どもたちが、アホなことをしないように、
保護者さんは見守る必要があるというのは一理ある。
しかし、あほなことをして、その結果をもって、身をもって学ぶ、
ということもたいせつなことかもしれない。

その日、小学6年生のワイは、近所の5年生のクワタの家に行って遊んでいた。
あそんでいるうち、どういうわけか、
「ザ・がまん」
をやろう、ということになった。

それは、クワタが言いだした。
なんか、他のトモダチとも、何回か、
「ザ・がまん」をして、遊んだんや、という

それで、「ザ・がまん」とはどういうあそびかというと、
ひとりは、四つん這いの姿勢になる。

そして、もう一人は、辞書を手に持つ。

そして、四つん這いになっている子の、後頭部に、
辞書を落とす。

当然、痛い。

「うぎゃああああ」

ってなる。
のたうち回って、痛がる。

それを笑う。

なんやそれ!

でも、それを、子どもやから、おもしろがって、やったんや。

かわりばんこに、やる。
辞書を落とす高さは、ほんとうに、低い位置からはじめる。

それを、だんだん、高い位置にしてゆく。

最初の数回で、クワタはのたうち回って苦しんで、
半泣きになって、ギブアップした。

ワイも、クワタと一緒に、やめたかった。

しかし、ワイは、エンターテイナーの部分があった。
そして、負けず嫌いなところがあったんや。

「もっといけるで!」

って、イキってもーた。
よせばいいのに。

それで、
「今までの最高記録はこの高さや。
同じクラスのタカハシ君が記録したんや。
にゃんたもチャレンジするか?」
ってなったんや。

「よおおし!こーい!」

て、ワイ、燃えてきたんや。

それで、クワタの身長の高さから、
辞書が落とされて、ワイは後頭部で受けたんや。
すごい鈍い音がした。

「うっひょおおおお」

で、クワタは大喜びや。
ワイは、ごろごろころがって、痛みに耐えた。

そして、そこで、ワイ、プチンって、キレてもうた。
なんか、へんなスイッチが入ってしまって、
「もっといけるで!」
いうて、
それを、「ゾーンに入った」というのでしょうか、
そのあと、3回ぐらい、記録を更新したわ。

最後は、2段ベッドの上の段から落とされたわ。
さすがに気絶するかと思うたわ。
井上尚弥の左ボディフックが当たったような音がしたなあ。

くわたはおおよろこびで、そして、
無事に立ち上がったワイを見て、

「神だ!」

とワイは崇拝されたわ。
「ザ・がまん」
の世界記録更新やからな。
しかも大幅に。
100メートル8秒で走ったみたいな
奇跡の記録更新や。

で、ワイも、なんか、誇らしい気がしたわ。
我慢強さを認められて、
この、ダメージに耐えて、
ワイ、不死身やん。みたいな。
満足やった。

しかし、しかしやな。
後頭部に、そんな大きな衝撃うけて、
無事ですむわけないよな。
ふつうに考えたら。

翌日、ワイは、朝起きたらものすごい頭痛で、一日寝込んでしまった。

あのときは、夏休みやったんかなー。
学校を休んだ記憶はないんやけど、
ワイが頭痛にうんうん言って寝込んでいたら、ヨシダがやってきた。
「なんでねちょるん?にゃんた」
っていうから、
「あたまがいたくてうごけんのじゃ」
っていうんやけど、
なんか、「仮病ちゃうか?」いう目で見てるねん。

で、「はやく野球部の練習行こうぜ!」みたいなこと言いやがるねん。

「熱もないんじゃろ?頭が痛いぐらいなんなん?行こうやあ」

ってうるさいから、

「頭が痛いんじゃ!きみにはこのいたさはわからない!」

っていうたんや。
イライラして、何回か言うた。
「きみにはこのいたさはわからない!」
って。

ヨシダはなんか、なっとくかない顔で、しぶしぶ帰って行ったわ。

そして、次の日になったら、頭痛はケロッと治ってたから、野球の練習にいったら、
なんかヨシダが、ワイが仮病でやすんだって、みんなにいいふらしててな、

「きみにはこのいたさはわからない!」

っていう、ワイが昨日言ったセリフ、
あれ、ホンマに痛くて動けんのに、おまえが信じてないから、
必死の気持ちで言うた言葉やのに、
なんか、面白ワードにしやがって!!!!!

ヨシダが真似して、流行らせてやがるねん。

「きみにはこのいたさはわからない!」

って、何人かにまねされたわー。
くそ。子どもめ。
ま、ええけど。

で、いま考えたら、後年になって、ワイ、ボクシングはじめてから、
最初のうちから、ちょっと殴られたら、すぐに頭が痛くなってたんやな。

先輩とか、コーチ、それからマサ伊藤会長にも

「なんか、すぐ頭痛がするんですけど、みんな、こんなもんですか?」

ってきいたんやけど、いやあ、そんなに頭痛することないで、
風邪ひいたときに打たれたら、頭痛するから、そういうことちゃうけ?
っていわれて、はあ、そうですかあ。って納得してたんやけど。

たぶん、いまかんがえたら、「ザ・がまん」のせいやで。

あれで、小学校の時に、ワイの脳はダメージを受けて、
打たれ弱くなってたんやと思う。

そう考えると、すごいな。あの日、「ザ・がまん」で世界記録を出したことで、
後年のワイが、ボクシングで活躍できないことが決まっていたとは。

いろんなことが、つながっているんだな。


1件のコメント

  • い、いたい、痛すぎる、、、

    考えただけで痛い、、、

    にゃんたさんは本当にSでありMでもあるのですね、、、

    ザ・がまんがなければプロボクサーになってたかも知れませんが、それも運命です!

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