「ジョイもずいぶん大きくなったから
そろそろ鎖につないで、
外ですごすようにさせようかー。」
その宣言が、家長・おとーさんから発された。
そのころ、犬という存在は、
今みたいには、大事にされていなかったんやな。
いまは、家族の一員・子どもみたいな存在になっていて
「犬」ではなく、「わんちゃん」とか「愛犬」って言わないと
落ち着かない人も少なくないかもしれない。
けれどワイらの時代、ワイらの地域では、
たいていの飼い犬っていうのは、家の外で飼われていて
敷地内に犬小屋を置いて、
鎖につながれていたもんや。
多くの犬は用心棒の役目も期待されていて、
番犬っていう言い方は今でもあるんかな?
夜中の泥棒よけとか、不審な人にはほえかかる役割もあった。
知らない住宅地を歩いていると、
必ずと言っていいほど、どこかの家の犬にほえられたものだし、
鎖のチャラチャラいう音が聞こえていたもんや。
ジョイが小さかったころは、家の中、玄関で寝ていたけれど
いまや、ずいぶん大きくなったから、
こいぬ扱いは今日までやで!
「一人前」の犬というもの、
犬小屋にいて、家を守る。
いっぴきで眠る。
怪しい人が家に入ってきたら、
大きな声で吠えつけるんや。
ということで、ジョイも、
「元服」して、
首輪をつけて、鎖につながれて、
犬小屋デビューの日を迎えたわけや。
しかし、や。
この、「元服」が、
ジョイには思いもよらないショッキングな仕打ちやったんやな。
うちの歴代の犬たち、
ポポも、コロも、
あと、迷い込んできてちょっとだけ滞在していたハッピーとかクロにしても、
鎖につながれて、犬小屋で過ごしていた。
もちろん、毎日散歩にはつれて行くし、
毎日エサはやる。
(この言い方も、いまのワンちゃん好きの人には立腹もんかもしれん。
けれど、そのころは、犬に対して「ごはん」っていったら怒られていたもんや―。
「エサ」といいなさいって。
また、「あげる」といってもしかられてたな。
犬ねこに「あげる」とは何事か。「やる」といいなさいって。
散歩も「連れていく」もんやったし
「犬」は「飼っている」ものやったんや)
だから、ポポやコロが、内心ほんまはどう思っていたかは別にして
鎖につながれ、外で飼われることに、
さほど不服を表明したものはおらんかったように思う。
「ワイら、そんなもんや、犬やし。」
と受け入れていたようにみえていたし、
家のもんが近づくと、嬉しそうにしっぽを振ってじゃれついてきていた。
それがいぬである。
という認識で、ワイらは犬たちに接しておったんや。
ところがや。
ジョイは、鎖につながれたことで、ショックを受けてしまって、
せいだいに拗ねてしまった。
「なんでや?
なんでおれ、こんなしうちをうけるんや?
あ、あんまりやないか(涙)
く、くさりにつなぐなんて。
動くたびに、チャラチャラいうてるし!
ショックやわ。聞いてないわ。
あんたら、ええ人やと思っていたのに
そんなひどいお人やったんやな。
正体見たりや。
ひとでなし。
もう、がっかりや。失望したわ。」
そんな感じやねんなー。
われわれとしては当然、鎖につながれたとて、
ジョイも、今までの犬たちと同じように、
例えば家の者たちが学校から帰ってきたら、
犬小屋から飛び出てきて、しっぽを振って歓迎する。
それが犬のあるべき姿やと思っていたんや。
ところが、ジョイは、ワイら、家族のだれが帰ってきても、
うれしそうな反応をするどころか、
犬小屋の中で丸まったまま、動かない。
恨めしそうな眼をして、じろり、と上目遣いで見つめるだけなんや。
これには家族のみんなびっくりしてたで。
「ジョイは、鎖につながれえて、よっぽど腹を立てたんかのう」
「家に帰ってきても、小屋の中からぎろりとにらむだけじゃ。あんな犬は、初めてじゃ。」
「甘やかして、家の中でながく飼いすぎたのかもしれん。
もっと早うに犬小屋になれさせればよかった。」
「まあ、しばらくすれば、ショックからも立ち直るじゃろう。」
まあ、一時的なもんや。
いつまでもあんなふうに拗ねてはおらんじゃろう。
そんなふうに、やれやれ、変わった犬じゃ、というわれわれの思いに反し、
ジョイの機嫌は、その後も、
ずっと、ずっと、なおらなかったんや。
(つづく)
2 件のコメント
ジョイは他の犬より人間に近い子だったんだなぁフム(( ˘ω ˘ *))フム
寂しさ、怒り、やるせなさ、色んな負の感情でストレスを抱えてしまったんやね。人間の私も自分の部屋を貰えた時は、喜びよりも親の部屋迄の廊下の歩数を大股小股で何度も歩いては数え、ひとり、遠いなあ、、、と涙ながらの溜め息をもらしたことを思い出す。一昨日実家でひっくり返っていたヒラタクワガタの雄が我が家に引っ越し、昨夜は我が家のそばで家族が見つけてきた同種の雌もウチに滞在している。1年前、ウチの一員となって冬眠まで経験した同種の雌が今は元気に過ごしているが、皆何らかのダメージを受けていて、先輩雌は馴染めずソワソワしていたし、最近来たメンバーも何だかぐったりしていて土の中に入って来て出て来ない。先輩女子は、ウチに来た時から凄い食欲だったのに、えらい違い。環境が変わると良くも悪くも人間含めた動物に影響及ぼすんだなぁって改めて感じたな。環境の変化っていう共通点で色んなことを考えさせられたよ。戸部動物園のピースと飼育係の高市さんも思い出したな。