蚊を「蚊」と呼んでいますか?
わたくしは蚊を「蚊」と呼びません。
あの者のあまりの狼藉ぶりに、わたくしは、腹が立ちましたので、
「名前で呼ぶ価値すらない。
あなたがたに名前はもったいない」
と思い、
時と気分に任せて、
「ぱ」とか「ぴ」とか「ぷ」とか呼ぶようにしております。
ことしは、庭の水たまりの対策をしたせいか、
ぱの出現は抑えられておりました。
しかし、秋になってもなかなか涼しくならないので、
10月も中旬になりましたが、まだぷはたまに現れます。
しかし、わたくしは、たまにぽが現れたときには、
確実にぴを仕留めているのであります。
ことしは人生で最もぺに血を吸われたことが少なかったのではないでしょうか。
さて、きのう寝ていたら、枕元で、
「もしもし。もしもし。」
と声がしました。
「不審者か!」
と、緊張して跳ね起きたところ、
暗闇で、
「にゃんたさん、おどろかないでください。
あやしいものではありません。
危害をくわえるつもりはございません。
今日はにゃんたさんにお話をしにまいりました。
私は、蚊でございます。」
ワイは夢を見ているのだろう、と思った。
「わたくし蚊の代表としてまいりました。
今年の山口3区の蚊の代表で、ルードリヒと申します。」
暗いからよく見えないが、
ああ、そうなんや、と納得した。
夢やからな。
「おまえ、ぷの代表か。ぺがワイになんの用や。」
「にゃんたさん、にゃんたさんに、お願いがあります。
にゃんたさんは、蚊の界隈では有名人です。
にゃんたさん、10年前を思い出してください、
にゃんたさんは、蚊を殺さなかったではないですか。
殺生はいかん、といって、殺さずに、戸外に逃がしてくれていたではないですか。」
「そんなときもあったかな?」
「わたしたち、蚊の界隈では、当時、
『あれはブツダの生まれ替わりだぞ!』
ということで、山口市白石ブロックの蚊たちは、大いに沸き立っておりました。
にゃんたさんを知らない蚊はいないほど、その慈悲深さで、有名人だったのでございます。」
「たしかに、私はそのころ、自給自足を目指していたかもしれないし、仙人を目指していたかもしれないな。」
「それが、どうですか。
いつのころからか、にゃんたさんは蚊に条件反射でお怒りになるようになられました。
その前は、キンチョーリキッドとかは使いませんでした。せいぜいが、蚊取り線香でした。
それが、いまはどうですか。
躊躇なく、キンチョーリキッド的なものを使いますし、スプレーも使います。
なによりも、躊躇なく、思いっきり、〇すではないですか。
そしてもっとわるいことに、私たちを「蚊」とすら呼ばないではないですか。
これは到底、私たち蚊の界隈は、納得できるものではございません。
なので、話し合いに来ました。
なぜ、そんなに蚊に怒るのですか。
殺意を持たれるのですか。
あんなに慈悲深かったのに。
私たちはそんなにたたき〇されるぐらいわるいでしょうか?
血のすこしぐらい、くれてやってもいいでしょう。
わたくしたちに、にゃんたさんの、おいしい血を供給してください。
そう思って、今日は参りました。」
「わかりました。それでは話し合いましょう。
まず、お茶でも飲んでください。」
「お気遣いなく。お気持ちだけいただきます。」
「まずですね、あなたは安眠を妨げるではないですか。
ちょうど、眠りに入りかかった時に、ぷーんといって、耳元に襲ってきます。
これは、安眠妨害ではないですか。わたくしにとっては迷惑行為ですし、
さらに、ほっておいたら、血を吸って、かゆくするではないですか。
それで、ますます寝られないではないですか。」
「それは、失礼いたしました。そのような、どんくさい仲間もいるのでございます。
一流の蚊でしたら、安眠を妨害せずに、こっそりと血をいただくのですが。
しかしですね、そうはもうしましても、気にせずにお休みになられたらよいのではないでしょうか。
血の少しぐらい、たった数ミリグラムぐらい、ゆっくり、腹いっぱいになるまで、吸わせてくれれば、逆にそんなにかゆくもならないのですから。」
「それがいやなのです。プーんという音も、ほんとうに、不快に感じるのです。
あなたがたが、虫だから、簡単にお考えになられているのではないですか?
あなたがもし、虫じゃなかったらどうですか?
あなたがもし、人だとしたら、と想像してみて下さい。
勝手に人の家に入ってきて、寝ようとしている人の耳元で異音を立てて、眠りから覚まし、
おまけに血を吸い、しかも、かゆいかゆい症状を起こさせる。
これは、あなたが人間だったら、明らかな犯罪行為とされるのではありませんか。」
「たしかにそうです。たしかにそうですが、私は虫ですからね。
人間だったら、という仮定が、設定としておかしいと思います。
たとえばですね、ラグビーをしている人に向かってですね、
『これがサッカーだったらおまえ、ハンドで反則やぞ!』
といっているようなものではないでしょうか。
私たちは虫なのですから。明白に、人間ではありませんから。」
「そうれはそうかもしれません。しかし、あなたがたのやっていることを考えてください。
安眠妨害、傷害、という、なかなかに我慢するのが難しいことをやっている、ということは、おわかりでしょうか。」
「わかりました。そこに関しては理解します。
しかし、だからといって、たたき〇す必要がございますか?
それこそ、もし、私たちが虫ではなく、人間だったら、と考えて、
安眠妨害したからといって、ほんの少し血をいただいて、かゆい症状を与えたとして、
その場で叩き〇されるような罪になるのでしょうか?」
「それはですね、夜中に不法侵入して、姿を隠して、眠りに入ったところを狙って異音を立てて睡眠を妨害することを繰り返し、挙句に血を吸って、かゆいかゆい症状を引きおこすような人間がいたとしたら、それは、死刑にはならないかもいれませんが、それでもかなりの量刑の刑事罰を食らうように思われますが。」
「それは、執行猶予はつきませんか?」
「やめましょうか。もしも人間だったら、で考えるのは。あなたは虫ですから。」
「もういちど、考えてみてください、私たちが、血を吸うのはなぜなのか、わかりますか?」
「卵を産むために、えいようがいるのでしょう?でも、わたしの血を吸うことはないじゃないですか。植物をすっていればよいことではないですか。」
「そこなんです、にゃんたさん。」
「どこですか。」
「私たちは、卵を産むために栄養がいるから、動物の、人間の血を吸うのですよ。そのときに、やっぱり、おいしそうな血を狙うわけですよ。」
「おいしそうな血を。」
「そうですよ。『オラはー、蚊にー、刺されないんだー』、いうてよろこんでいる方いらっしゃるでしょう?
あれ、逆なんですよ。蚊が狙うっていうことは、血がおいしいんですよ。つまり、健康なんですよ。
だって、卵を産むのに、栄養価の低い血とか、毒の入った血とか、質のわるい血は避けたいじゃないですか。
だから、わたくしたちが血を吸いに行くっていうのは、名誉なことなんですよ。よろこぶべきことなんですよ。」
「うーん。でも、うれしくないですねえ。」
「だから、蚊たちは、うれしいうれしい、すきすきー、いうてね、『ぷ~ん』って音出してるんですよ。」
「いやー、うれしくないっすねえ。」
「だからね、にゃんたさんは、蚊からの愛を拒絶しているということに、なるのではありませんか。」
「だからようするにあなたの主張は、血をよろこんで吸わせてあげなさい、と。」
「そうですよ。愛していまーす、血を分けてくださーい、ってお願いしているのに、問答無用でたたき〇すって、これ、ありですか?こんなことありですか?あっていいですか?」
「でも伝染病とかうつすじゃん。」
「はっ!話をすり替えた!私らやぶ蚊が、そんなことしたことあります?名誉棄損じゃないですか?」
「いやでも、可能性はあるでしょう?」
「話をすり替えたっ!可能性があるものは徹底的に避けたいのなら、貴様、鶏肉食うなよ!!!生鮮食品ぜんぶ中心部まで75度以上に加熱してから食えよ!!!ダーーーーーー!!!!!」
「なぜだか、急に怒りだしましたね。」
「はあはあ。」
「いやーでもやっぱり、いやです。血を吸われたくないですね。」
「愛がないですねえ。生きとし生ける者への愛がないのではないですか?」
「いやあ。でも、逆に考えてくださいよ。相手がいやがっているのだから、吸いたくても、吸わないのが、愛じゃないんですかね。いやがっているのに、吸わせろ、というのは、愛ではないと思いますけどね。」
「むむ。それもそうですね。」
「まあ、それでは、これからも変わらず、チャレンジして来てくださいよ。血を吸いに来てください。そこまではオッケーです。もし、気が向けば、吸われてもいいなって思えば、吸わせてあげますよ。愛で。」
「そうですか。話に来てよかったですよ。吸わせてもらえるように、何度もチャレンジしますよ。」
「でも、命がけで来てくださいね、機嫌がわるかったら、ブチ〇しますからね。」
「それは、愛は命がけ、ってことですか?」
「そういうことになるかもしれませんね。」
「そんなに厳しいことですか?愛は。」
「うーん。もう少し考えます。とりあえず、家に入ってこないでほしいですね。」
「うーん。考えます。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。遅い時間に、しつれいしました。今日はお話できてよかったです。」
「これ、今日の話、ブログに書いていいですか?」
「あ、ご自由に。どうぞどうぞ。」
ということで、書いたで。

1件のコメント
これでにゃんたさんの蚊への呼び方がどうなったか楽しみで仕方ないですね。
あやつら私より夫、ママよりパパの血を吸いたがるんですね。どっちもあんまり健康じゃないんですよね…