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一粒目『ミミ①』

ワイがまだ幼稚園に通ってた頃のことや。
うちでミミっていうネコを飼っていた。

当時はまだ、町内に、ノラねことかノラいぬとか、うようよおったでな。
子どもたちは、町内に、顔見しりのノラ犬が何匹かおったもんや。

そのころイヌもネコも室内で飼うというのは一般的ではなかったと記憶しているし
犬の散歩をしてうんこを片づけるなんて文化はなかったから
町じゅうに、といっては大げさなんだけど、いたるところに犬のふんは落ちてたし
子どもたちはよく犬のうんこをふんでいたもんや。
(たぶん大人たちもたまにはふんでた。)

そんな時代に、ワイらの家庭で、ねこのミミを飼っておったんやな。
もちろん放し飼いやで。家にもまあ入れてやるけど、自由に外を歩き回っとった。
キジトラ―そのころはそんな名称きいたことなかったな―のオスでな
サイズはけっこう大きかったんかなー。
エサはだいたい味噌汁ご飯や。そんなもんやったで。

でもたまに、たまにっていうか一度きりやったかもしれんけど
お魚のあらを炊いてやったことがあったな
そのころうちでは犬も一緒に飼っていて、ポポっていうなまえの白黒の毛の長い犬やったけど
ポポとミミとがならんでおさかなたべてたなー
おとなたちは「おおごちそうや」いうてな
うれしそうにしてたわー
ポポはがっついてすごい勢いでたいらげるんやが
ミミはほら、ねこやから、ねこ舌やからさ、熱くてなかなかようくわん。
ポポが先にくいおわって、ミミのお魚まで食いに行って
せいだいネコパンチ食らってたな―。
そんな光景を笑いながらみてたわー。

ほんでな、ミミはバッタをたべるねんな。
バッタいうても、そのころワイらの身近におったバッタは、あの、緑いろの細いやつや。
草むらにおるんやな。
子どもたちは、緑いろの細いバッタをつかまえては、
「ミミ―」と呼んで、バッタをミミの鼻先に突き出す。
そしたらミミはバッタを食うんやなー。
あんまうまそうじゃなかったけどな。
でもなんかバッタをつかまえて、ミミがたべて、それがたのしかったんやろな。
何回もバッタをミミにあげてたなー
最後のへんはミミはバッタを食わんようになった気もするな
「バッタかあ。もうええねん、それ。あきた。」
みたいな顔するねん。
「ミミがバッタたべん」
ってワイ不機嫌になってたきおくがあるな。

ミミは、ワイら人間が、舌を鳴らすと寄ってきた。
ミミ―ってよんで、子どもながらに一生懸命、舌を鳴らすんやな
そしたらどこからともなく、ミミが現れるんや
それで、やあミミがきたー、いうて、うれしいんやな。
これも、よんでも、よんでも、なかなか現れん時があってな
そんなときもなんかワイ機嫌損ねてたよな
「ミミがおらん。よんでもこん!」いうてな
まあ、ワイはミミがすきやったんやな。

ミミの写真はあんまりのこってないねんけど
一枚、幼稚園の頃、ワイは4歳か5歳ぐらいなんやろな
ワイがミミを体いっぱいに使って抱っこしてる写真がある。
ミミはあんなちっこい子にも、おとなしく、上手に抱かれている。
だっこされるのがじょうずなネコやった。
それはのちになって、うちに来たねこのチャーミーが抱っこされるのが下手くそやったから。
下手っていうか、嫌がってたから。
そのときになって、ああ、ミミはあんなガキんちょにもなすがままにだっこされて
だかれ上手な、いいねこやったよなー。って、わかったんやな。

さて、そんなミミやったんやが、「いたずらネコ」でもあったんや
ワイら子どもはそんなんあんまりわかれへん。
でも大人には人間の社会のおきてというもんがあるがな。
ある日ミミがおさかな、なんやろな、サバやったんかな
を、まるごと一匹くわえて帰ってきたんや。

「わ、ミミが魚もってきたっ」
ってこどもやからうれしいやんか。
サザエさんの世界やんか。お魚くわえたドラねこやんか。
でかした!ぐらいの気持ちでおるねんな。
でも、大人は怒るわな。
「どっからとってきたの!」
「ミミはわるいネコじゃ」
ってなるわ。それでな、
ミミはそんなふうな、いたずらをちょこちょこしでかすんやな

それで
「ミミはもういたずらが過ぎる。人さまに迷惑をかける。捨てよう」
という話が、おとうさんからでるようになったんや。

ワイらはイヤやんか。
ワイと、2歳年上のお姉ちゃんは
ミミを捨てるの反対派を結成しました。
デモ行進をしました。
とはいえ子どもに一票はありませんから。
お父さんが決めたらその法案は通るのです。

そんなわけで
ミミを捨てるということはお父さんが宣告して
それは決定事項みたいなんやけど
それがいつ決行されるのかははっきりせえへんかった。
いわゆる執行猶予中やったんかな。
ワイは
「ミミすてるんなら、ぼくがすててくる」
っていうたんやなあ。
なんのまねやったんやろなあ。
「この子に手をかけるというなら、せめてワイがこの手でえ!」
みたいにかっこつけたんやろな。
大人は「そんなことでけへん、むりや」いうたな。
あんたみたいなちっこいのが
いくら遠くへ連れて行ったところで
ミミはかしこいからじきに帰ってくるでーって。

それで、ワイは言うたんやな
「とおくに、すててくる!
えきまでいって、すててくる!」

ほーう。駅まで連れて行ったら、かえってこんかもなあ。
みたいな空気が一瞬流れたけど
「ダメや。駅ぐらいなら帰ってくる」
「そもそもあんた駅までよう行かんじゃろ」
「いける!ぼくひとりでえきまでいける!」
と、いうたものの、ワイ駅までのみちしらんのや。
ほんまは、せいぜいその半分の国道までの道しか知らんかったんやな。

それでも、そういうた手前、次の日、ワイはひとりで、ミミおいで―いうてやな
「さいごにバッタたべ―」いうてやな
ま、くわんかったけどやな。
ミミを抱っこして、おうちを出たっていうわけや。

つづく。

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