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七粒目『ホタテがおこった理由②』

そうして、ワイら四人の一団は
「やれやれ、あの人はしょうがないのう」
ムードのなか、
ぞろぞろと廊下を歩いて進み、
ワイらの部屋、D棟の一階の和室、101号室に到着した。

ワイは入口の引き戸を開けて、今川くんと、ウスキ先生と一緒に、部屋に入った。
シカモリ先生はなぜか部屋の前に立っておった。

ウスキ先生がコマツ先生の布団に近づいて
コマツ先生が身を起こして、話がはじまった。
何やらプリントした紙きれを手にして話しだして、
たぶんその紙には、どの先生がどの部屋に寝るということがプリントされいるのだろう
その紙を見ながら、ウスキ先生が

「コマツ先生の部屋は101じゃが。ほんでここは、何号室じゃ?」

この部屋は、D棟一階、
101号室や。

「ここでしょう、101号室は。ここで、合うちょるじゃないですか、わし。」

とコマツ先生が言うと同時に
シカモリ先生が入ってきてワイにこう言った。

「わたなべ。おまえの部屋は、ここか?
 となりの102号室じゃなかったのか?」

なんという真実。

「ここです。ぼくの部屋は101号室です。」

間違えていたのは、
シカモリのほうや。

シカモリが、なんでか知らんが
ワイは101号室やのに、102号室やと思い込んでたんやな。

状況一転や。

ホタテは烈火のごとくおこりだしてやな。
ほらみてみいいい、わしはまちがってなかったやんけえええ!
ってもんや。
真っ赤な顔してワイのほうに突進してきたんやな。
なんでワイ~?って思ったけど
ブレーキの壊れたダンプカー状態や。

「おまえが、この、ことを大きくしやがって!」

「いや、シカモリ先生がぼくの部屋で寝るって...」

ワイは必死に無実を主張したんやけど

「いいわけ無用じゃあああ~!」

いうて、ワイの頭部にめがけて
ぶーんっ
って、でっかいクマみたいな手が飛んできた。

ワイはよけたわな。

あたかもプロボクサーみたいな反射神経で
ホタテのびんたを、ぱっとかわしたんや。
ワイ、かっこええ!って一瞬思ったわ。

しかし次の瞬間ホタテが

「よけるなー!!」

と余計にキレたわな。

そんなにキレられたら
逆らえませんやんか。
それから直立不動に立たされて
「動くなよ」っていわれて

バッシイイイ!

ってビンタされたわー。

 あれえ?おかしいな。
 ワイ、しばかれるようなことしたんかなー。
 シカモリがまちがえたんじゃないんですか?
 でも、いま、びんたされましたよねー。
 ほっぺた熱い―。耳キンキンする―。

ワイは涙があふれんように、感情を押し殺してたわな。

それからウスキ先生がコマツ先生をなだめすかして
ええ感じで機嫌をおさめてくれはったんやなー。

それからのことはよく覚えてないんやけど

「わたなべ。ちょっとこっちへこい」

とシカモリによばれて
シカモリに言われたことは、よく覚えているんやな。

「これはすべて、勘違いから起こったことだ。
今回のことで、腹を立てたりするんじゃないぞ」


さて、次の日の朝やー。
ひと晩ねたら、気持ちも落ち着いて
ケロッとしたもんや。

朝食が終わって、部屋に向かおうとしていたとき
「わたなべ、ちょっと、こっちへきなさい」
って、ホタテが、にこにこして近寄ってきたんやな。

ホタテ、めっちゃにこにこしてるねん。
ほんで、廊下の、窓際のほうに連れていかれて
ワイと一対一になって、ホタテはこう言うたんや。

「ゆうべのことはな、
おまえのミスではなかった、と。そう聞いた。
わしも、つい手を出して、あれはすまんかった。と。
しかし、
ワシがなんでおまえに腹がたったか、理由がわかるか?
それはな、
おまえが今川をつれて動いたやろ。
今川は今回の件には関係なかったわな。
おまえは自分の引き受けた仕事に、関係のない今川を巻きこんだ、
とワシには思えたんや。
ワシはおまえに頼んだわな。
シカモリにこう伝えてくれと。
それは、おまえがワシの頼みを引き受けたということや。
これから先、人生において
いろんな頼みなり、仕事を引き受けるようになる。
大なり小なりいろんな問題に直面もする。
そのときの心構えとしてな
いったん自分が引き受けたことは
最後まで、自分で責任をもつ。
なにか問題が起ころうとも
他人を巻きぞえにせず、他人に押し付けず
自分がひきうけたことは、自分が責任をもってやりとげる。
そういう男でありたい、と。」

そんなことを
ホタテはニコニコしたまま言うたんや。
一対一で、目を合わせて、そういわれた。

それで、なんか、ワイは
はあーって
感じ入ってもうたんやな。

「自分が引き受けたことは
問題が起ころうとも
他人を巻きぞえにせず
自分の責任で最後までやりとげる。
そういう男でありたい、と。」

なんか、頭のなかで
復唱してしまったよなー。

そういう心がけで生きていこうって
なんか、思ってしまったんよなー。

ホタテはいつか、奈良県から転校してきた男の子を
体育館の倉庫に呼び出して

「おまえ、よう京都からここへ来たのお。
 ワシは京都の人間が大嫌いじゃ。
 だからワシはおまえを殺す。
 ここに来たのが運の尽きじゃ。
 いつかかならず殺すから覚悟しとけ」

と言っておどしたとか
「めちゃくちゃやん」っていう逸話がちらほらある人やったけど
だからさすがに「あの先生、ええ先生や。だいすきや」とかいう気はないけど
それでもなんか憎めない、
おもろい先生やったよなー。




3 件のコメント

  • ホタテ間違えてなかった!疑ってごめん!

    でもビンタする…でも謝った…

    不思議な先生や(関西弁うつった)

  • わたなべ、何でビンタされなアカンのん?

    むかしはいたよねー、叩くセンセー!

    どこでもドア🚪あったら未来見せてあげたいな。

    あとさ、今川君自ら付いて来てくれたんやんね。頼んだんちゃうし。今川君の好意を有難く受け止めただけで、一人より二人の方が心強いし証人になるんですよー!ってホタテにその当時のホタテに言いたいです、わたし。

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