
そんなこんなでワイは学荘に寝泊まりしながら大学生活を始めることになったんやー。
学荘はダンス部のたまり場のひとつになっていて、
前田さんや八木さんの部屋に、よくダンス部の人らが出入りしてたわー。
だからワイも何人かのダンス部の人とは顔見知りになったわー。
ダンス部の人たちはワイのことを、
「だいめいくん・学荘の住人・ボクシング部・以上」
とだけ認識してたみたいやー。
それでじゅうぶんやー。
6号室の前田さんはいつも踊っていたわー。
ワイの部屋には、全身が映る鏡が置いてあったんやけど、
前田さんの部屋には鏡がないから、
しょっちゅうワイの部屋に出入りして、
鏡の前でダンスのフォームをチェックしていたな―。
だからいろいろとりとめのない会話をしたよなー。
卒業するか、もう一年留年してダンスをがんばるか、
という話をしてたの思い出すな―。
7号室の八木さんは学荘ではダンスを踊ることはなかったけど、
よく歌を歌っていた印象や―。
しゃべる声からしてソプラノやから、
生まれついて歌うことが身に沁みついている人なんかもしれん―。
正体は歌の妖精やったとしてもさほどおどろかないわー。
5号室の北田さんはバイトに忙しいからあんまり顔を合わせることなかったー。
地味やからということで、前田さんからは「ジミー」って呼ばれてたー。
1号室の中山さんはうんこがとってもくさかったー。
中山さんがトイレに入った後にトイレに入ったら
「うおおおおおおおっ」
ってプチ・パニックに陥ったわー。
鼻が曲がるほどのにおいで、
「コロか!」
ってワイは思わず一人突っ込みを入れてしまったわー。
息を止めていなければ毒ガスにやられる感じがしたー。
コロっていうのは、むかしうちで飼っていた柴犬のなまえやー。
ジョイがくる数年前に飼っていた子やなー。
ワイが小学2年生ぐらい、コロのうんちを踏んでしまったときに、
運動靴を脱いで、においをかいでみたことがあるんやけど、
ありえないぐらい臭かったんやなー。
オオオオオオオオウエエエエエ
ってなった。気を失うかと思ったわー。
それを思い出させる、中山さんのトイレのあとやったわー。
ワイは非常に学荘になじんで暮らした―。
「住めば都」とは、このことやー。
一つ屋根の下、みんな、家族みたいなもんや。
この、家族的なのがよいのやー。
とおもているから、
中山さんの部屋からごはんの炊けるにおいがすると上がり込んでいっしょにご飯を食べてみたり、
何か不足してたら北田さんの部屋を訪ねてものを借りたり
前田さんと八木さんはなんか知らんが距離感近いからしょっちゅう部屋に行き来するし、
ええなー、学荘は^^
風呂なしやからこそ、
トイレと台所が共同であるからこそ、
ピンク電話があるからこそ
金では買えない良さがあるよなー。
と、ここで「ピンク電話」について話しておきましょう。
ピンク電話っていうのは、
今は、ほぼすべての人間がスマートフォンなるものを持っているやろ?
当時は携帯電話というものを人々は持っていなかったんや。
電話をするときは、家の電話や。
でも、その数十年前、ワイらの親のこどものころは、家の電話すら珍しかったんやで。
電話のある人の家に行って、特別な連絡のとき、電話を貸してもらう。
そんな感じの時代をへて、ワイが生まれた時には、ほとんどの家に電話があったんや。
「昔は電話なんかなかったんやでえ」っていわれて
「へえ」って思っていたのに、
いまや、
「昔はスマホなんかなかったんやでえ」
「へえ」って思われる側になっとる。
時代の流れは速いよなー。
でも、こんなものすごい速さで変化して大丈夫か?
とも思っちゃうよなー。
で、ピンク電話とはなにかっていうと、
名前のとおり本体がピンク色をしている電話で、
1970年代から1990年代にかけて、アパート・下宿・旅館・店舗などの共用スペースに設置されていた電話やねん。
公衆電話みたいなもんで、通話には10円玉を入れて使う仕組みやった。
学荘にも、そのピンク電話が置いてあって、それがワイらの電話やねん。
その学荘のピンク電話の電話番号を、ワイは、ワイに連絡するための電話番号として、親とか友人に伝えるわけや。それは、前田さんも、中山さんも、八木さんも、学荘の住人はみんな同じやねん。あ、北田さんだけは自分の部屋に自分の電話つけてたわ。
学荘の廊下の、ピンク電話が、ジリリリリン、と鳴る。
そしたら、誰かが出る。
「はい、学荘です」
って出るねんな。
そしたら、自分にかかってきた電話かもしれないし、他の人にかかってきた電話かもしれん。
「前田くんいますか?」とかいわれたら、「少々お待ちください」とかいうて、
「前田さーん、いますかー、電話ですう」
とか言うて、取り次ぐわけやな。
それがピンク電話というものや!
若いみなさんは豆知識が増えたやろ!
今は、ほぼ見かけることないよなー。
ほんで、中山さんがピンク電話に出るとき、
あのひと、「落語研究会言葉」を話すやろ?
「○○さんいますか」
といわれて、
「います」
「いません」
ということを、こたえなあかんやろ。
そのときに、
「いてはります」
「いてはりまへん」
っていうねん!
なにそのことばーっておもったわー。
「こてこてやんけー」
って思ったな―。
ワイ、山口県にいた時に、関西弁には憧れがあったけど、
「いてはります」
を聞いたときは、マネしたいとはぜんぜん思わなかったなー。
上級者すぎるもんな―。
外国の人が寿司にあこがれてる!食べたい!いうて、
いきなりウニとか白子とか食わせたら
「こんなんちゃうねんっ!上級者すぎるねん!
まずは、サーモンとか、かんぱちとか、トロとか、玉子とかでええねんっ」
ってなるみたいな感じやなー。
あと、電話で特徴があったのは、前田さんや―。
前田さんは電話で自分のことを名乗るときに、
かならず、
「前田なんですけど」
って言うねん。
ワイは、前田さんが
「前田なんですけど」
って名乗るたびに、
毎回毎回思ってたんやけど、
そこは、
「前田ですけど」
でええやん。
「前田なんですけど」
って。
「なんですけど」って。
前田なんですか?
って思っちゃうよなー。
前田なんですけど、何なんですか?
っておもっちゃうよなー。
ぜったい、
「前田ですけど」
でええやん。
いつもいつも、
「前田なんですけど」
って名乗るんやなー。
奇妙に面白かったよなー。
(つづく)
2 件のコメント
いてはります。
はなんかカッコイイ!
いてはりまへん。
は、へん。が、なんかヤ!
いてはりません。が、イイ!
関西弁、実は若い時はすごーく好きではなかってん!今は、、、