ワイは日々をおうちで楽しく暮らしていたのに
いつの日からか、へんな服を着せられて
ようちえんというところに毎朝通うことになったんや。
そうして、せんせいっていうおとなの女の人がいて
いっぱいいるガキどもとみんなでいっしょに「おうた」をうたわされたり
「おゆうぎ」をやらされたり
「おえかき」をさせられたり
ねんどであそんでみたり
いろいろさせられたんやけど
だいたいまあおとなしく従っていたんやな
でも、わいは、はずかしがりやさんでやな
ようちえんの制帽の黄色いベレー帽のへたの部分が許せなくてちぎったみたいに
変なこだわりというか、へんに鋭敏な感性があってやな
「おゆうぎ」で、絶対にできないポーズがあったんやな
それは「コケコッコーのポーズ」というものでやな
片手をおでこの前に、
もう一歩の手をおしりのうしろに、
そして片足を前に出して、
ぐっと体を前傾姿勢にして
両手のひらを、ひらひら~って、させるポーズなんや。

ようするに
まえの手がニワトリさんのとさか
うしろの手がニワトリさんのしっぽ
っていうことやとおもうんやけど
このポーズが、ワイ、は、恥ずかしくてえええええええ。
もう、まず、それをやっている、
おとなの、おんなの、ようちえんのせんせいが、
もう、こっけいでこっけいで、
はずかしくてはずかしくて、
うわあああああああああ
見ちゃおれんっ
って感じがするねん。
そしてさらに驚くべきことに、
ほかのすべてのガキどもが
みんな平気で、
その、はずかしくて悶え死にそうになるはずのそのポーズを
拒否するどころか
どちらかと言えばノリノリで
平気でやるねんな。
え?あなたがたは、感情ないの?
なんでそんなポーズができるの?
人としてのなんていうんですか、誇りというか、自尊心というか、
そういうものが、ないんでしょうか?
羞恥心というか。プライドというか。
ワイは本当に、そのポーズができなかったんや。
ほんまに恥ずかしくて、
勇気がないというか、
自分の体がそのポーズをするということが信じられない恥辱だというか
うわあああああ。。。。。って、
バンジージャンプができなくて身がすくむみたいに、
はずかしすぎて、とてもできないっ!!!!
精神的にきつすぎたんや。
これ、いまだったら、ぎゃくたいに当たる可能性はないんかな。
そしてもう一つ、ワイがどうしても恥ずかしくてできないポーズがあって
それは、かけっこの、
「いちについて。よーい、ドン!」
のときの、せんせいが、
「よーい」
といったら、がきども、スタートラインで、走り出すポーズをとるんやな。
「さあ、今からはしりますよ」
というかんじで、走るポーズを身構えるんや。
それが、はずかしくてえええええええ。
なんやねん。
なんやねんそのポーズ。
なんで、
「よーい」
っていわれて、
ガキども、そろいもそろってスタートラインで、
きどって、サッて、走るポーズをとるねん。
あほやんけ。
あほや。
あほ以外の何ものでもないわ。
はずかしい。
やっちょれん。
山口弁出た。
それでな、ワイ、かけっこの練習のときは、
一切、ポーズとらへんかった
「はい、ひろあきくん、よーい、のかまえして」
ってせんせいに言われるけど
んなもん無視や。
せんせいも、こいつに言ってもむだや、とおもうんやろな。
わいは、突っ立ったまま、
「よーい、どん」
を迎えて、走り出すわけや。
ワイら、そのとき、4人ずつでかけっこしてたんや。
で、はやしのケンちゃんがいちばんはやくてやな。
練習のときは、いつも、ケンちゃんが一等や。
ほんでワイが、いつも二番目。
ほかのふたりは、しもせとさはらやけど、話にならんほど遅かったでな。
ほんで、ついに運動会の本番の日がやってきた。
おかあさんは、仕事かなんかで、来てなかったなあ。
そのかわり、たかこおばちゃんがみにきてくれたんや。
ひろくんは、かけっこ、何等になるかねえ?
みたいにいわれたから、
「いっとうは、むりじゃ。ケンちゃんがはやいけえ。ぼく、にとうじゃ。」
ってこたえたわ。ケンちゃんには勝てる気がせんかったからなー。
ほんで、ついにかけっこが始まった。
ワイらの番がきた。
ケンちゃん、ワイ、さはらはじめ、しもせひろし、の順番に、スタートラインに並んだわ。
「位置について。よーい」
ワイ、いつものごとく突っ立ってたわ。
しかし、やな、これ、今日は本番やんか。
ギャラリーがいっぱいおるやんか。
親御さんたち、写真もパシャパシャとってるやんか。
「かっこつかへん」ってことになったんやろな、
園児が一人だけ、ぼーっと突っ立ってたら。
ほんで、練習のときみたいに、許してくれなかったんや。
「よーい」のポーズは、今日ばかりは、必須や。義務や。
せんせいが、わいのところに駆け寄ってきて、
「ひろあきくん、ほら、よーい、のポーズして」
っていうんや。
いややんか。
「はやくはやく、よーい。」
いややんか。
でも、よこで、けんたろうも、しもせひろしも、さはらも、
「よーい」のポーズで固まって、待ってはるねん。
「ほら!ひろあきくん、ポーズとって、はやくっ!」
って、ちょっと大人の本気の怒りを出されたら、
そら、ワイも逆らえませんがな。
「ひー」
っていいながら、思い切って、走り出すポーズとったわ。
うまれてはじめてや。
は、はずかしいいいい。
そして、そのスタートの瞬間を、
たか子おばちゃんが、ばっちり写真に撮ってくれてたんやなー。
ワイ、なんちゅう、恥ずかしそうな表情と、ぎこちない構えや。
今にも泣きそうな、情けない顔して、スタート前のポーズをとってるワイの写真、今でも実家に帰ったら、アルバムの中に眠っているはずや。
そして、本番やから、「いちについて。よーい。」バーン!ってピストル鳴った。
いまでも、ようちえんの運動会のかけっこで、むかしみたいに、バーン!ってやるんかな。
あんなでっかい音でピストル鳴らすの、野蛮やから、心臓にわるいから、今はホイッスルとかになってそうやけど。
ともかく、よーい、スタート!になって、ワイらガキども4人はいっせいに走り出したんや。
ほんで、あれ、ケンちゃんおらんやんけ。
ようわからんけど、ワイ、独走で、一等でゴールしたー。
一等や―。一等のリボンもろたでー。おうちに帰ったら自慢しよー。
あとで知ったけど、ケンちゃんは、スタートでくつが脱げてもーて、くつを拾いにもどって、ビリやった。たかこおばちゃんが「あの子あほやな」いうてたわ。その場面も写真に残ってるわ。
そして、ワイが、悠々自適に、まるで観音様のようなやさしいにっこにこの慈悲深い笑顔で、独走でトップを走っている写真も残っているわ。なんであんな至福のやさしい顔して走ってるねん。風呂上がりに扇風機のそよ風に当たってるような表情や。ようわからんわ、ガキのころの情緒って。なあ。
(つづく)
2 件のコメント
共感性羞恥というやつですかな。私は小学校高学年から中学生がピークだった気がしますが…早過ぎない?
精神的に大人な子だったのねきっと!
ニワトリだけにコッケイって!?
はい、黙ります🤐
なんか子供が走るの親って見に来るでしょ?運動会とか
あれって自分が産んで育てた子が走って、がんばれ!がんばれ!って
なんかポケモンみたいな感じなんかな
いけ!ピカチュウ!みたいな?
勝ったら、俺のピカチュウ強い!
負けたら、ピカチュウ、帰ったら特訓や!
、、、みたいな?
恥ずかしいポーズ、写真におさまりたくないポーズあったわー!走る直前、まるで体育館で予防接種するのを緊張しながら順番待ちしてる時間に似ていたな。こっちはあとほんの少しでそのドキドキ抱えたまま走らなあかんのに、何で親たちは余裕な顔で写真撮るんやろう?とか思った事あったな。んで、自分も同じことしてたな。