Home / 今日の一粒 / 百二十一粒目『やさしいおじさん』

百二十一粒目『やさしいおじさん』

「王冠に入ってるスーパーカー」

って、なんのことか、わかるかなあ。

これは、ワイらがようちえんとか、小学一年生とかのころやなー。

「スーパーカーブーム」みたいなのが
だれの何の思惑なのか知らないけど、
テレビなどによって流行させられていた時期があったんやな。

で、ワイら子どもたちは、
「スーパーカー」に興味を持つように誘導されがち、
みたいな時代があったんや。
「ポルシェ カレラ」とか
「マセラティ・メラク」とか
「プジョー クーペ」とか
スーパーカーの名前を自然に憶えていたもんやけど
それに大きく寄与していたのが

「王冠に入ってるスーパーカー」

というわけや。

そのころは、コーラとかの清涼飲料水は、
缶入りよりは、瓶入りのほうが主流やったんやな。

♪1.5倍~ペプシ300~
♪50円~ペプシ300~
♪1.5倍で50円、ペプシ!

っていうテレビCMを覚えているから、
そのころは、コーラとかジュースとか、
ビン入りで200mlが標準やった、んじゃないかな。
それが、300ml入りになって、やったね!50円!いうてる時代や。

でも、ワイの家庭では食べ物の禁止条例がいくつかあったから
コーラや炭酸飲料は、飲んだらあかんと言われてたけどなー。

そして、ビン飲料には、「王冠」と呼ばれるふたがついている。
そのふたを「せんぬき」で開けて、飲むんやな。

だから、空き瓶と、王冠が、いっぱいゴミとして、でるわけね。
空きビンは回収されて再利用されるけど、王冠は捨てられるんやね。

それを考えると、今はほとんど缶入りかペットボトルになって、
しかも、缶のふたは、開けても、ふたの部分が分離されないで、ゴミが出ない。
時代とともに、工夫されてきた。

もしタイムマシンに乗って、当時の飲料メーカーに行って
今の缶を見せたら、どう思われるんやろ。

さて、そのビンのふたの王冠なんやけど、裏側には、
中身の液体が漏れないように、パッキンの役割として、
灰色のまあるい樹脂のシートがはりつけてあるんやな。
で、さっきの、

「王冠に入ってるスーパーカー」

っていうのは、そのまあるい樹脂のシートをはがしたら、
王冠の裏に、スーパーカーのイラストが印刷されているんや。

もしくは、「あたり」っていうのがあって、
10円とかが当たるねんな。

それを、コカ・コーラさんが、
瓶コーラと瓶ファンタの王冠で、企画したんやなー。

こちろん、それにもテレビコマーシャルがあって、
ピンク・レディさんが出て、うたってはったー。

♪王冠に入ってるスーパーカーすてきよ♪
♪あたるよ あたるわ チャチャチャンスのコカ・コーラ♪

ワイ、さいきん思うけど、
ワイのこの記憶力、
おそらく脳みその無駄遣いやんな―。
もっと、みんなのため、公共の利益のために
脳みそをじょうずに使いたいもんだよなー。

さて、それで、当時のちびっこたち、
ゆっくんとワイも、
スーパーカーの王冠を集めて回ったもんやー。
町内にはいくつか、よろずやみたいな個人商店があってやな。
そこにいったら、店の前の地面に、王冠が落ちてたわー。
それを、ゆっくんといっしょに、ひろって、めくって、集めていたもんや。

さて、そんなちびっこなんて、お店の人に、歓迎されないでしょう?
落ちてるスーパーカーの王冠をひろいに来る子ども。
なんなら、ゴミ箱の中あさってる。

でもな、あるとき、ゆっくんとワイとで、
いつものように、町内のちいさなよろず屋の前で、
「あった!いやちがうわ、これペプシや」
とか言うて、落ちてる王冠を物色してたら、
そのお店の主人らしき、おじさんが出てきたんや。

赤ら顔で、ちょっと太ったおじさんや。
今でいうたら、芸人さんの野生爆弾のひとみたいな感じや。
その人がにこにこして出てきて、

「スーパーカー探しよるんか。おじさんがあげようか」

いうてやね、お店のなかから、王冠を10個ぐらい持ってきてくれたんや。

「うわああああ!ありがとうございます!」

ゆっくんとワイ、おおよろこびや。

それから、そのおじさんのことは

「やさしいおじさん」

ってよぶようになった。

そのお店の前を通るたびに、

「あ!やさしいおじさん!!!」

って、ワイとゆっくんは犬がしっぽを振るみたいにして、あいさつした。
やさしいおじさんも、ワイらを見かけると、いつもにこにこしてくれた。

やさしいおじさんの姿が見えないときは、

「やさしいおじさん、おらんね」

と、ちょっとざんねんやった。

でもな、そんなにやさしいおじさんを好きやったのにもかかわらず、ワイ、そしてゆっくんもおそらく、
そのお店で何か買い物したことって、なかったんじゃないかなあ。

で、いつしか、そういう町内のよろず屋みたいな小さなお店は、
次々と閉まっていって、やさしいおじさんのお店も、いつの間にか、なくなっていた。

スーパーマーケットができたり、
ショッピングセンターができたり、
コンビニができたりして、
町内に点在していた、ちいさな八百屋さんとか、タバコ屋さんとかは、
どんどん、消えていったんやな。

さて、やさしいおじさんの思い出は、それだけ。
それだけなのに、たまに、おじさんのことを思い出すんやなー。

ゆっくんとワイが王冠を拾う旅をしていて、
お店の人が、わざわざワイらを呼び止めて、話しかけてくれるなんてことは、ほかには一度もなかった。
そらそうやんなー。あかの他人のうすぎたないがきが、勝手に落ちてるものを漁ってるだけやもんなー。

でも、やさしいおじさんは、ワイらに王冠をくれた。
そして、いつも、にこにこしてたんや。

「あのチビたち、なんや、王冠のスーパーカーに夢中みたいやなー。
ほんなら、王冠あつめといて、こんど来たら、あげよか。よろこぶかな?」

とか思ってくれたんやろ。

あのおじさん、今も元気なんかなー。
あのときのチビが54さいになって自分のことを懐かしんでブログ記事に書いてるなんて夢にも思ってないやろな。


タグ付け処理あり:

1件のコメント

  • 3人目の野性爆弾
    返信

    くっきー!!大好き!!
    やっぱりくっきー(みたいな人)は心根が優しいんやなぁくぅちゃんかわええなぁ
    マセラティを知っている!?!?
    流行ってたんやなぁ〜マセラティとかカムイ?だとかは大人になって、車を乗るようになって知っていったなぁ。子供の頃は親の車の名前しか知らんやった!
    あの見た事ない、トヨタ・マツダ・日産以外のエンブレムはなんや!?!?から、調べてたなぁ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です