Home / 小説(創作) / 百八十二粒目『ときめきが見える眼鏡⑤』

百八十二粒目『ときめきが見える眼鏡⑤』

※前回までのあらすじ※

「ときめきが見える眼鏡」を発明家の山口さんがつくった。
一緒にその眼鏡をかけてファミレスで人間観察をしていたところ、
まったくときめいていなさそうなのに、ときめきハートが出っぱなしのひとりの若い女性がいた。
「これは誤作動?」と話していたら
とつぜん女性の頭からものすごい噴火のような勢いでハートが噴出しはじめた。

※前回までのあらすじここまで※

ワイと山口さんは打ち上げ花火を見るようにその異常現象をかたずをのんで見守っていた。

ほどなくハートの噴火は徐々におさまってゆき、
その後は、間欠泉のように、
たまにどどどどどって噴き出しては、
ゆるやかにおさまり、
を繰り返す状態になった。

噴火もとの若い女性の表情をみると
まったく何事も起こらなかった、という風情で
カタカタとノートパソコンをたたいている。

ワイと山口さんは顔を見合わせた。

「どういうことですか、いまの。」

「あんなの、はじめて見ましたわ、ぼくも。」

「尋常じゃなくときめいたって、ことですか?なにかのはずみで。」

「いや、あれだけのハートの量なら、確実に急性ときめき死せなあきまへんわ。」

「100%、誤作動ですか。」

「もし誤作動じゃなかったとしたら、人類史上最高レベルのときめきが先ほど起こった、ということになります。」

「表情がいっさい変わってないですもんね。」

「誤作動かあ。なんでかなあ。」

「謎ですねえ。」

「ちょっくら、調査に行ってみますわ。」

山口さんが腰を上げた。

「え?あの女の人に、直接はなしかけてるんでっか?」

「あほいいな!なんて聞きますねんな。」

「すみません。つかぬことをお伺いします。あなたいまときめいていましたか?」

「こわい、こわい。」

「おじょうさん、のほうがいいですかね。おじょうさん、とつぜん失礼いたしますが、一つだけお聞かせいただいてもだいじょうぶでしょうか。さきほどですね、おじょうさんは、ひょっとして、ときめいていらっしゃいませんでしたでしょうか?」

「シャラーップ!だめです、だめです。それは通報されます。おじょうさん、も、もしかしたらアウトです。どれだけ丁寧に取り繕ってしゃべるとしても、ときめき、このワードはね、初見のおっさんにいきなり言われて許されるものではないのです。前科がつきます。いきなりうんこを顔に投げつけられるのと同じレベルの迷惑と恐怖です。慰謝料を請求されます。3000万円を一週間以内に振り込めと言われます。」

「いわれてみれば、そうかもしれません。」

「ぼくのいう調査というのは、こっそり、観察しますんやんか。ちょっとトイレに行くふりして、ノートパソコンで何をしてるんか、とか、様子をうかがってきますわ。」

そう言って山口さんは席を立つと、女性のテーブルのそばを通り過ぎ、トイレのほうに姿を隠すと、ほどなくしてまた女性のテーブル横をとおって、帰ってきた。

「どうでした?」

「パソコンで何をしてるんや?と思いましたけど。」

「えらいもんが見えましたか?」

「論文みたいなの書いてはりましたわ。」

「あら興醒め。」

「ちらっとみえましたけど、タイトルが、『リキテンシュタインのポップアーティストではない部分』とか。」

「それ、丸尾わたるくんやないかい!」

「?」

「そんな論文をかいていて、ときめくわけがないですからね。」

「なぞですな。」

「きょういちばんの謎ですな。」

そんな結論になり、山口さんとワイはお会計にむかった。

お会計はウェイターの男の子がしてくれた。
名札には「きむ」とマジックペンでかいてあって、「ありがとごじゃいまーす」といってくれた。

(最終回につづく)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です