「かもとりごんべえ」
っていうむかし話があるんやけど。
今の子はそんな話しってるのかなあ。
ワイらが小学生のころは
知らん人間おらんぐらい有名なむかし話やったけど。
いま考えればめちゃくちゃな話でな
あんまりめちゃくちゃやから
チャットGPTに頼めばあらすじを一瞬で要約してくれるけど
その必要すらないと思うから
話の内容については省略するわな。
ほんでな、小学校2年生の時にな
図画の時間に「読書感想画」みたいなのを描くんやけど
課題が
「かもとりごんべえ」
の絵やったんや。
絵の具で画用紙に描くやつや。水彩画やね。
ほんでワイは
ごんべえさんが、100羽のカモに引っ張られて
空を飛んでいる場面を描いたんや
眼下に広がる村の景色
たくさんのちいさな家や木々や田畑を
こと細かに描いていったんやなあ
そしたら、担任のふくなが先生
やさしいゴリラみたいな男の先生が
この先生が絵が上手なひとでなあ。
ご自身でも油絵なんかを描かれていたんやが
ワイはよく絵をほめてもらっていたんやけど
わいの「かもとりごんべえ」の絵を
完成前からえらく気に入ってくれてやな。
「これはええ!わたなべ、そのちょうしじゃ」
いうてやね、わいは、そんなにええ絵なんかな?ってわからんかったけど
ようわからんけど、美術をたしなむおとなには、構図とか、配色とか、細かく書き込んでいるところとか
「ええ絵やな!」って思うところがあったんやろな―。
ほんでな、放課後になってまで、描いていたんやけど、
なんかな、ワイ、絵の具をこぼしたかなんかして、完成目前で
自分のその「かもとりごんべえ」の絵を、台無しにしてしまったんやな。
ふくなが先生は、ワイ以上に悔しがってやな
「うわー。わたなべ、これはええ絵じゃったのになあ。おしいなあ。」
いうてやね、悩んだ挙句に、
「これ、持って帰って、もういっぺん、最初から同じの描いてくれんか?」
いうたんや。
いま考えたら、よっぽどワイの「かもとりごんべえ」の絵が、ふくなが先生の目には、よかったんやなー。
「たいへんやとおもうけど、ほんまにこれは、もったいないから、この絵だけはこのまま終わりにするのは惜しいから、もういっぺん、たのむから、家に帰って、同じの、描きなおしておいで」
いうてやね、わいはその、台無しになった絵を見本としてもってかえって、家でもういっぺん最初から、新しい画用紙に、「かもとりごんべえ」の絵をかくことになったんや。
まあ、ワイも、わるい気せえへんしな。
ワイの「かもとりごんべえ」の絵、そんなにええんやなあ。
それで、家で、画用紙に筆と絵の具を用意してやね、
すらすらすらと、ペンで下絵をかいて、絵の具で色をつけて
同じように、描いていったんや。
見本があるから、まえよりも、すいすい描いていける。
そして、夜遅く、わいは、なんなら、まえのよりも、もっと上手に、描き上げた!
って思ったんや。
「できたっ!」
その出来栄えには、ワイは満足やった。
そして心地よい疲労感のなか、眠りについたんや
翌朝、学校に行く前に、たかこおばちゃんが家に来たんや。
たかこおばちゃんは、おかあさんの妹で、となりの家に住んでいて、
まいにちのように、うちに来てたんやな。
おかあさんはほら、親やからさ、厳しいとこあるやんか。
おこるし。怖いとこがあるやんか。
でも、たかこおばちゃんはまったくおこらないし、やさしいし、
ワイら兄弟は、たかこおばちゃんが大好きやったんやなー。
で、ワイはたかこおばちゃんに、学校に行く前に
「かもとりごんべえ」の絵を見せて
せつめいしたんや
「きのう夜までかかって、これ描きなおしたんじゃ!」
そう言って、もとの汚してしまった絵と、昨夜、新たに描き上げた絵を、見せたんや。
そしたら、たかこおばちゃんはケラケラと笑いだして
「なんとまあ!これは、きょう持って行ったら、ふくなが先生に
『えらい安うにあげたのう』
っていわれるよ」
っていうねんな。
「やすうにあげた」ってなんやねん?
はじめてきいた、そんなことば。
そんなこといわれるわけないじゃん。
って思ったけど、たか子おばちゃんがいうには
ぜんぜん、前に描いた絵の方が、丁寧にしっかり描きこんであって、
新しいほうは、やっつけ仕事感がすごい、っていうねん。
えー、そんなことないけどなあ。
むしろ新しい絵のほうがええじゃろ?
ってワイは思ってたからね。
たかこおばちゃんは、絵が、そんなに上手じゃないから。
あんまりわかってないからね。
ふくなが先生は、わかってるから、ほめてくれるよ。
そう思って、ワイは学校に行った。
そして、
「おお、わたなべ、描きなおしてきたか!ごくろうじゃったのう。みせてごらん」
と、にこにこ、そわそわしてるふくなが先生に、
胸を張って、昨夜遅くまでかかって完成させた、新しい「かもとりごんべえ」の絵を見せたんや。
絵を見たふくなが先生の顔が途端に真顔になって、一瞬だまってしまって、「あちゃー」っていう表情になって、はっきりした声でこう言ったんや。
「えらい安うにあげたのう!」
すごい。たかこおばちゃん。ぴったり同じこと言うた。
予言的中や。
考えてみれば、たしかにな、眼下にひろがる村の景色、
ぜんぜん、ペン画のときから、かけた時間が違うかったもんなあ。
たしかに、夜遅くまで描いたけど、労力でいえば、三分の一ぐらいで、すらすら描いちゃったもんなあ。
村の家の数は半分ぐらいになっとるし。
カモがでっかくなってて、カモの数も明らかに少なくなったよなー。
100円ショップのマグカップみたいな安っぽさがあるよなー。
子どもにはわからないけど
子どもをながくやってきたベテラン=大人には、わかるもんなんやなあ。
「おとなって、こどもにわからないことが、わかるんやなあ」
って、妙に舌を巻くような気分になったのを記憶してるわー。
子どもってほら、安っぽいのが好きなとこあるやんか。。。
萩焼のお茶わんよりは、ドラえもんがプリントされたお茶わんのほうがええやんか。。。
金持ちの家の子は知らんけどやな。。
