「思い出話」には、こわいところがある。
気をつけた方がいい。
というのは、人の記憶、いたるところ、ぽろぽろと、抜け落ちていくもんやから。
砂でこさえた団子みたいなもんで
時間がたてば、ぽろぽろ、くずれてく。
ただでさえ、自分から見た物語という
偏りのあるところに
さらに記憶が抜け落ちて
そういう見えない部分を
「だいたいこうやったなー」
と、手探りでつけたしていく
だから「思い出話」は時間がたつごとに
原型からどんどん離れていって
いつの間にか、おはぎみたいに
実話のお米のまわりに
虚構のあんこがたっぷり塗られてるみたいな
「それってあなたの感想ですよね?」
みたいなお話になっていたりするもんや。
さて。
うちの近くに、空き地というか、広場があってな。
子どもたちは、学校から帰ってきたら
広場に出てきて遊ぶことが多かったんやな。
ワイが小学校の1年生のときや。
ある日の夕方、いつものように
ワイは広場におったんやな。
そしたら、見知らぬ男の子がひとりおる。
見るからにワイより年下なんやけど
つまらなそうにしてるから
ワイ、その子に話しかけたんやな。
やさしく、はなしかけたんやで。
そしたらその子は
ワイをたたいてきたり
砂をかけたりしてきたんや。
ほんで、わいは頭にきてしまってやな、
その子をブロック塀に押し付けたんや。
そしたら、その子は泣いてしまった。
ふつうはな、泣いてしまったら、それでおしまいやんか。
でもそのとき、なぜかワイは泣いているその子をさらに
ぐりぐりぐりーって、3回ぐらい、塀におしつけたんやな。
なんでそんなことをしたのかわからない。
ワイの体の奥に、なんか「サド気質」みたいなんが潜んでいて
その時、発動したんかもしれん。
泣いているその子をさらに泣かしている形やから
「あかん、すでに泣いてるのに、ワイ、やりすぎてるんちゃうか?」
って、やりながら、良心にとがめられるのを感じてもいた。
その子にしてみれば、こんなの、きっと屈辱やんか。
泣かされて、泣いてるのに、もう白旗あげてるのに
それでも放してくれなくて
ぐりぐりぐりーってブロック塀に押し付けられてやな。
その子は泣いておうちに帰りながら、思ったんやろな。
「あいつ、なんてわるい奴や!」
って。
「山口県でいちばんわるい奴や!」
ってなったんやろな。
でもそのときのワイはまったく反省してない。
「生意気なちびがおったから、ちょっと、わからせてやったわ。」
ぐらいの気分で、おうちに帰って麦茶飲んだわな。
晩ごはんをたべて、ぐっすり眠ったわ。
さて、その次の日や。
ワイは、当時のソウルメイト
毎日でもいっしょにあそびたい大のなかよしの
ゆっくんと、広場の前を歩いてた。
それは、平和なときやった。
ええ天気やし、新緑まばゆいし、そよかぜふいとった。
なんならチョウチョがひらひらしてたわ。
しかし、とつぜん、その平穏が破られた。
バタバタバタ、とせわしく靴音をたてて、
ワイとゆっくんの目の前に
二人の男の子が立ちはだかったんや。
見れば、一人は、きのうワイが泣かした小さい子や。
泣かして、さらに3回ぐらい、ぐりぐりグリーって
塀に押し付けた、あの子や。
そして、その子に並んで、一回り大きい子がおった。
ワイと同じ年ぐらいに見えるが、けっこう太い体をしておる
なんか、こぐまみたいや。
つまり、強そう。
あとで名前を知ることになるんやけど
このふたりは兄弟。
つい先日この町内に引っ越してきて
ワイらまだ、その子たちの名前も顔も知らなかったんやな。
強そうなのが、兄のマサヤ。
ちっこいのが、弟のシンヤ。
そして、シンヤがワイをにらみつけて、
「兄ちゃん、こいつじゃ!
こいつにやられた!」
っていったんや。
ビッシイイイ!って人差し指で、ゆびさされた気がするわ。
あ、これ、あかんやつや。
この人ら、天誅しに来とるやんか。
ワイ、絶体絶命やんけ。
さすがに一瞬で状況を悟ったでー。
(つづく)
三粒目『マサヤとシンヤ①』
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1件のコメント
絶体絶命…!?!?
どうなっちゃうの…!?!?