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八十七粒目『町内旅行のバスのなか』

「なんでこんなこと覚えているんや?」
っていう幼いころの思い出があるでしょう?

たいして事件は起こってないんやけど
なんか、おぼえている、という。

小学1年生ぐらいの時かなあ。

それ一回きりしかなかったんやけど、
町内旅行みたいなのがあってな、
バスを1台貸し切って、町内のガキどもとおとなたちが乗って
「大島」に「地引網」にいったんや。

「大島」がどんなとこやったか
「地引あみ」がどんなものやったか
ぜんぜん覚えてないけど
なぜか、そこに行く時の
バスの中の様子を
いまだに覚えとるんやな。

バスのなかで、
ワイの隣の席にいたのはもちろん
ゆっくんやった。
なぜなら自他ともに認めるニコイチの仲良しやったからなー。
だれもワイとゆっくんを離れ離れに座らせることは考えられなかったんやなー。

それで、行きのバスの中で、
最初おとながマイクを持ってあいさつして
それから、子どもたちにマイクが渡されたんやー。

それで、悪ガキどもが、マイクを奪い合って、
歌を歌ったり、なんやかんや、わいわい大騒ぎするわけやな―。

ワイとゆっくんは低学年のほうやったから、
ちょっとはおとなしくしてるんやな。

ほんで、高学年の子らは、

♪月曜日は元気に遊び~
♪火曜日は浣腸の稽古~
♪水曜日はスカートめくり~
♪木曜日はもりもり食べて~
♪金曜日はキンチョーの稽古~
♪土曜日は土人のパンツ~
♪日曜日はにこにこ笑い~
♪それが太郎の一週間

とかよくわからないしょーもない歌を歌っては
バカ笑いしていたんやなー。

それで、高学年の子らが飽きてきたところで、
ゆっくんがマイクを握って、なんか歌を歌ってやな―。
ワイも、
「ワイも、うたをうたう!」
って言うたんや。

そしたらゆっくんが、マイクを奪ってきてくれて

「これから、ひろくんが、うたをうたいます!」

と宣言して、ワイにマイクを渡してくれたんや。

しかあああああああし!

さあ、ひろくん、うたいます、
となったその時、突然、ワイ、
マイクにビビってもーたんや。

つまり、マイクを渡された瞬間、
とたんに、気後れしてもーて
あわわわわ
ってなったんや。

マイクを手にしてるから、なんか言わんといかん。
絶体絶命や。

ウオーーー!!!!

って、ワイ、マイクに向かって吠えたんや。

もう、それが精いっぱいやったんや。
とてもじゃないが、
気の小ささが爆発してもーてるから
うたなんか、うたわれへん。

突然ワイが「うおおおおおお」って叫んだもんやから、
なんか、けっこうウケてて、
バスのなかは笑い声に包まれとる。

なんとか収集をつけなあかんから

「歌はやめて、クイズを出しますっ」

って、とっさに切り替えたんや。
この辺のアドリブ力はどうなってんのかようわからん。
火事場のくそ力の類なんやろなー。
ピンチになったら自分でもわからん意外な力が発揮されるってやつやな。

しかし、「クイズを出します」
といったものの、何も考えてないんや。

「ぶたはぶたでも、ぶたじゃないぶたはなんでしょう」

って、ワイは言った。
とっさに、そういったんや。
こたえなんか思いつてないんや。

みんな、うーんと、考え込んでしまった。

「かさぶた」
「ちがいます」

「やきぶた」
「ちがいます」

「まぶた」
「ちがいます」

そら、正解なんか考えていなんやから、
ぜんぶ、「ちがいます」っていうしかないやんか。

それで、バスの中のみんな、
「わからん」
ってなって、
ワイは、正解を言わなあかん。
ピンチや!
しかしこのピンチにワイは、
答えを思いついてしまったんや。

「正解は、ゆきぶたです」

これがまたウケてしまった。
なるほど!
とバスの中、大満足や。
よかったなー。
奇跡のクリーンヒットやー。

「ゆきぶた」
というのは、なぜか知らんけど、
ゆっくんが、たまに言われていた呼び方なんや。
なんで「ゆきぶた」と言われているのか知らんが
いま考えると、「やきぶた」とかかってたんかなー。

そしたらゆっくんが、じぶんが「ゆきぶた」といわれて
ひろくんにからかわれて、しかも、大うけしていたことに、
気分を害してしまってやな、鼻息荒くマイクを奪い取ると

「ぼくも、クイズを出しまあす。
くもはくもでも、くもじゃないくもは、なんでしょう」

ああ、とワイは思ったわけや。
ゆっくん、わいとおなじや。
正解を思いついていないけど、とりあえず
勢いでクイズを口走ってしまったな、と。

バスの中のガキどもは、口々に、

「ひろぐもー」
「ひろぐもー」
というわけや。

なんやひろぐもって。
わい、「ひろぐも」なんていわれたこといっかいもないわ!

ゆっくんは、
「ちがいまあす!」
「ちがいまあす!」
いうてる。

そして、バスの中みんな、
「わからん」
ってなったんや。

さあ、ゆっくん、正解はなんなんや?

ゆっくんは、こういった。

「正解をいいます。そんなくもは、ありません」

バスの中、ブーイングの嵐や。
しょーもな。ゆっくん、しょーもな。

それでやね、それから時間はたちまして、
「地引あみ」を終えて、
帰りのバスのなかやったかなー。
ゆっくんがまたうたをうたったんやけど、
それが、その当時テレビで放映されていた、
「家なき子」というアニメのオープニングソングや。

ゆっくんは、しっとりと、歌い上げたでえ。

♪山は今、悲しみ色した朝もやの中
♪立ちのぼる
♪スープの湯気のように
♪あたたかかったかあさん
♪さようならいつだって
♪生きることは闘いさ
♪だからまた今日も
♪これから歩き始めよう

ワイを含め、バスの中のガキども、
ただ、
「ふーん」
と思って聞いていた。

そしたら、バスの運転手さんが、
今まで、ひとことも言葉を発していなかった
バスの運転手のおじさんが、

ひゃくてええええん!!!!

と大声を上げたんや。

「いまのうたは、100点じゃ。
なんじゃ、おまえらは、
朝から黙って聞いとったら、
だれそれの一週間だとか、
うんことかしっことか、
浣腸とかなんだのと、
下品な歌ばっかりがなり立てて。
今のもりもとくんのうたはすばらしい。
ああいう、心のきれいになるような歌を歌いなさい!」

みたいなことを言うたんやな。
バスのなかはシーンとしてしまって、
となりで、ゆっくんは、めっちゃうれしそうに
満足そうにしているんやな。

そしたら、つぎに、高学年の
来栖くんが、マイクをにぎってやな
「そしたらボクも、遠慮なく、歌わせてらいまっせ」
みたいな、ボクも運転手さんに褒められる歌、歌えます、みたいなことで、
「夏の思い出」
を歌い始めたんや。

♪夏がくれば 思い出す
♪はるかな尾瀬 遠い空
♪霧のなかに うかびくる
♪やさしい影 野の小径

♪水芭蕉の花が 咲いている
♪夢見て咲いている 水の辺(ほと)り
♪石楠花(しゃくなげ)色に たそがれる
♪はるかな尾瀬 遠い空

と、これがまた、やさしい声で、
見事に歌い上げたんやな。

ワイは、はああッと聴き入ってもうて、
感動してしまったんや。

そして、来栖くんが歌い終わると、
パチパチパチパチと拍手をして、

「1000点!」

って、ワイは叫んだんや。

そしたら、そのあとから、ゆっくんの機嫌が悪い。
ふてくされてるねん。

「どうしたん?」

っていうけど、いじけているねん。

「100点なのに、1000点、、、」

って、ぶつぶついうてるねん!

ようするに、ワイが、ゆっくんのうたより
来栖くんの歌に感激して、
1000点!
といったのが、気に入らなかったらしいんやなー。

なんかその辺の情緒がワイにはようわからんよなー。
「乙女心は晴れのち雨」
みたいなことなんかなー。

「ゆっくんも1000点や―」

とか言うて機嫌をなおしてもらったな―。

以上、たいした事件も起こってないし
オチもない話なんやけど
なぜか記憶に残り続けているんやなー。

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2 件のコメント

  • ウオ➖➖➖!!!!って叫んだ、後咄嗟に歌はやめてクイズを出します!、中々切り替えのはやい対応がウケました!かなり、凄いワザだよね!👏👏👏

    1000点言うたんはひろちゃんやったんや。ゆっくん、隣りでブツブツ〜なるわな。乙女心は晴れのち雨って、、、ゆっくん乙女になってるやん!

    バスの中🚌の様子が、むっちゃ伝わって来たわ〜。

  • ゆっくんのこといじりすぎですやん!

    ゆっくん拗ねてますやん!

    たしかに歌おう▶︎うおー!▶︎クイズ出しますはおもろいですね笑笑

    私はね〜子供がらわちゃわちゃしてるところに茶々入れる大人が好かんですたい。

    大人気なくない?

    わちゃわちゃさせときゃええですやん。

    そりゃしーーんとしますわ。

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