ワイは重たい学生かばんを、右手、左手、と持ち替えながら、家までずっと走ったー。走りながら、 「ジョイや、わるかった。ワイは何も考えてなかった。ゆるしておくれ。ジョイが怒るの、当たり前や。ワイら家族を恨めしく思うのも当たり...
そうして、ジョイとワイら家族との「冷戦時代」というべき時期がはじまった。 とはいえ、けんかをしているとか、腹を立てているとかではないねん。以前のように、すきすきすきー、かわいいかわいいかわいいー、という愛情表現が、お互い...
「ジョイもずいぶん大きくなったからそろそろ鎖につないで、外ですごすようにさせようかー。」 その宣言が、家長・おとーさんから発された。 そのころ、犬という存在は、今みたいには、大事にされていなかったんやな。 いまは、家族の...
こいぬのジョイとワイは「相撲」をして遊んだ。ジョイは「相撲」が好きやった。じゃれて向かってくるのをワイはうけとめてひょいっと横に投げる。そしたらまたジョイはじゃれて向かってくるんやな。そんなことをキャッキャ言いながらくり...
さて、ふたたびこいぬを迎えに行ってからは正式にこいぬはうちの家族になったんやー。もう夜になってもさみしがってなくことはなかったし元気いっぱいやった。 ジョイっていう名前はワイのお兄ちゃんの発案やった。おすいぬで、色がかな...
ジョイがいた。 そのことをいつかは書き留めたいとジョイがいなくなってからずっと思っていたけれどワイはこれまで書けなかった。それは 「ジョイは ワシらの家にもらわれて来て ワシらと一緒に過ごして はたして しあわせだったの...
「木下のじいさんが倒れた。」 血を吐いて倒れた。入院してる、というので、病院にお見舞いに行った。 病室の前に名札がかけてあって「木下八喜十」とかかれていた。 病室に入ると「おーおまえかー」とベッドに横たわったまま、木下さ...
「魔が差す」というのでしょうか、思いもしてなかったことを、その瞬間だけ、なぜかやってしまった。そういうことがないでしょうか。後から考えても、なんでそんなことをしてしまったのかわからない。 ひとは、どういうわけで、思いもし...
ふと見た川に、コイが泳いでいるとうれしい。気分がなごんで、ちょっと顔がほころんで、 「ああ、コイや」 と小さくつぶやいてしまう。 あれは、ボクシング部の夏合宿のときや。 海が近い田舎の森の草木に囲まれた古い宿舎。朝の走り...
新人戦のトーナメントのときのこと。その一回戦が、ワイにとっても、藤井にとっても、心躍る、デビュー戦やった。 ワイの試合の結果はと言えば、1ラウンドでまけたわー。 その前の日に、ほかの新人選手たちの試合を見ていたら、逃げな...