「魔が差す」というのでしょうか、思いもしてなかったことを、その瞬間だけ、なぜかやってしまった。そういうことがないでしょうか。後から考えても、なんでそんなことをしてしまったのかわからない。 ひとは、どういうわけで、思いもし...
そうして、ワイら四人の一団は「やれやれ、あの人はしょうがないのう」ムードのなか、ぞろぞろと廊下を歩いて進み、ワイらの部屋、D棟の一階の和室、101号室に到着した。 ワイは入口の引き戸を開けて、今川くんと、ウスキ先生と一緒...
だれかの言葉がそれも、目を合わせて言われた言葉が 「ああ、そうやなあ。 ええこと聞いた。 ワイ、これから、そう心がけて生きていこう」 と、胸に刻まれることがある。 その言葉を、のちに思い返したときに 「あの言葉、しかし、...
「おまえがワシの弟を泣かしたんじゃの?きのう」 マサヤがワイにそういった。ワイも、ゆっくんも、固まっとる。 「泣かして、かべに何べんも、ぐりぐりやられたんじゃろ?」マサヤがシンヤのほうを見た。シンヤはコクリコクリとうなず...
マサヤがこっちにこわい顔を向けてずいっと一歩踏み出して 「おまえか!わしの弟を泣かしたんは!」 そんで、ワイはマサヤになぐられるわけやな。マサヤがおおきくふりかぶって「ふーん!」「ふーん!」「ふーん!」といいながらどーん...
「思い出話」には、こわいところがある。気をつけた方がいい。というのは、人の記憶、いたるところ、ぽろぽろと、抜け落ちていくもんやから。砂でこさえた団子みたいなもんで時間がたてば、ぽろぽろ、くずれてく。 ただでさえ、自分から...
さて、ミミをだっこして、うちを出てやな、ミミはおとなしくだかれて運ばれとるわけや。いま考えたら、そのときのミミ、どんな顔してたんやろな。 交差点の信号を渡っていけだタバコ屋をとおりすぎたところでミミをおろしてひと休みして...
ワイがまだ幼稚園に通ってた頃のことや。うちでミミっていうネコを飼っていた。 当時はまだ、町内に、ノラねことかノラいぬとか、うようよおったでな。子どもたちは、町内に、顔見しりのノラ犬が何匹かおったもんや。 そのころイヌもネ...