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九十三粒目『山口弁講座①強調の副詞ぶちとその活用』

「ぶちうまい」

これが、山口弁の代表的な使われ方の一つとして知られている。

「うん、ぶちうまい。
シマヤの味噌、ぶちうまい。」

むかし、プロ野球の広島カープの津田投手が、
シマヤ味噌のテレビコマーシャルで、
そのせりふを棒読みしていた姿が思い出されるのだが、

「ぶち」

とは、「とても」、とか、「すごく」と同じで
形容詞・形容動詞を強調する副詞である。

なので、わが大邱の友・サンテおっぱの大好きな、「まちゅうら・あや」の楽曲

『Yeah! めっちゃホリディ』

は、山口弁でいえば、

『Yeah! ぶちホリディ』

となる。

さて、山口にお住まいの方ならご存じであろう。
「ぶち」
にはバリエーションがある。

そのひとつめが
「ぶり」
である。

すなわち、

「ぶりうめえ」

である。
ブチよりも、わずかに、ローカルな、
こなれた、土着のかんじがする。(かもしれない。)

このような変化は、関西言葉でもあって、
「めっちゃ」は、「むっちゃ」につながり、
「めら」とか「めっさ」とか「ごっさ」とか
「ごっつ」とか「ごって」などのバリエーションがあるようである。しらんけど。

さて、
「ぶちうめえ」
「ぶりうめえ」
ときまして、
それだけでは終わりません。
その派生で

「ばりうめえ」

というのもある。

「ばり」は、
若干レアかもしれないが、
きちんと標準山口弁である。

「ぶち」
「ぶり」
「ばり」

とくれば、とうぜん、
「ばち」もある。
「ばちうめえ」
というのも、けっこう耳なじみのある言い方である。

さらに活用形があって、

「めり」

というのがありまして、

「めりうめえ」

となる。
ただしくは「活用形」ではなく「変形」なり「派生形」なのだが、
この「めり」は、比較的、ディープな山口弁かもしれない。
しかし、通じるはずである。
くそガキども中のくそガキどもが好んで使う感じか。

そしてこの
「めり」
までマスターすれば、
山口弁講座の3級ぐらいになれるのだが、
まだまだ次のレベルもあって、

「ちょり」

とトランスフォームすることがあるのである。

「ちょりうめえ」

となるわけだが、このへんまでくると、
その使い分けには繊細さがひつようになり、
詩人レベルの言語感覚がないと、
なかなか正確な使い分けが難しいかもしれない。

たとえば、そうめんを食べて、思ったよりも、かなりうまかった場合など

「ちょりうめえ」

が適当かもしれない。しらんけど。

さて、

ぶち、ぶり
ばち、ばり、
めり、ちょり、

ときたわけだが、
このすべて、
語尾に
「くそ」
がつくことで、
一層、強調される。

すなわち、
「ぶちくそ」
「ぶりくそ」
「ばりくそ」
「ばちくそ」
「めりくそ」
「ちょりくそ」
である。

「ぶちくそうめえ」

などは、ほんとうに、ほんとうに、生まれて初めてカレーをたべた原始人の気持ちを表現できるほど、
爆発的な感激を表すことばである。

そして、もうすこし、種類があるのだが、ここからは上級者レベルである。

「標準山口弁」からは、ややはずれる。
「ロカール山口弁」とでもいうべきか。
すなわち、山口県でも、一部の人たちしか使っていないかもしれない、
そんな、やや、耳なじみのない部類になるであろう。

つぎは、

「カチ」

である。

「カチうめえ」

となるわけだが、
これもほんとうに、うまいっ!という、硬質のことばである。
カチ~ン!と突き抜けるほどの尖ったうまさなのである
これはかならず「カチ」とカタカナで表記する。
これを好んで使う子どもは実在する。

そのつぎに、

「パリ」

というのもある。

「ぱりうめえ!」

となるわけだ。

もし、これがおせんべいをたべているときなら、

「このせんべい、ぱりパリパリして、ぱりうめえ!」

となることもある。

さて、これでだいたい網羅できたかと思うのだが、
最後にもうひとつ、

「まぶりこ」

というのがある。

「まぶりこうめえ!」

というのだが、実はこれはワイは使ったことないし、
聞いたことも、一回か、二回しかないない。

だから、もしかしたら、そのときそいつが、
あまりにも前代未聞のおいしさだったもので、
今までの言葉では表現しきれなくて、
そのおいしさと感動を表すために、
そいつの語感と思い付きで、
即興で、

「まぶりこうめえ!!!」

と新しく思いついたことばを勇敢にもつくった瞬間に使ってみただけなのかもしれない。

しかし幼きワイはそれをきいて、
「おお!そんなことばもあるんや!」
と、古くから伝わる山口弁なのであろうと記憶した。

というわけで

「まぶりこ」

ということばを使ったことのある人、だれかいませんか?

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3 件のコメント

  • 使ったことないです。聞いたこともないけど、声に出してみると初めて聞いた気がしないです。方言も派生語入れるとすごい数になりますね。使う土地、使う人、その人らしさが滲み出て来るのが方言の良さなんでしょうね。目の覚めるようなものや、くすぐったくなるようなもの、力強いもの、どれも等しくいとおしい言葉ですね。

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