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二十二粒目『ジョイのこと⑩』

その日は雪が積もったんやー。

瀬戸内側の気候は温暖なもんで、雪が積もることはあまりないんやけど、
その日は珍しく10センチ以上積もったー。

雪国の人は、雪なんてうんざりなんやろうけど、
ワイら雪が積もるのが珍しい地域のこどもたちは、
雪が積もるとテンション上がっちゃうところあるのよなー。

嬉々として、雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりするんやな。

雪合戦というのは、雪で球を握って、それをぶつけ合うという遊びや。
人間なんて壁とキャッチボールをしているだけで夢中になれる単純な生き物やから
雪の球をぶつけ合うのが楽しいんやなー。
特にワイら中学生やったから、中学生というのは、
「なんかようわからんけど楽しいなあ」
という「ゾーン」に入ってしまえる年齢なんで
雪合戦をキャッキャいってたのしんでいたんやな。

さてワイの特技の一つに、
「泥団子を固く握れる」
というのがあったんや。

昭和の子どもの遊びの中に
「泥団子の決闘」
というのがあるんやー。

それは、土を握って球を作って、
それを「泥団子」とよぶんやけど、
そいつを、できるだけ固く握って、
自分の「選手」をつくる。
その「選手」をぶつけあって、
どっちの泥団子の選手が固いか、強いか、
どっちかが割れるまで競うんやな。

それは「赤土」で選手を作ったら強いとか、
選手を火で焼いたら固くなるとか、
いろいろ禁じ手があったりするんやけど、

ワイの握った泥団子は、同年代の子どもたちの中では
もっとも堅くて、強くて、
泥団子の決闘では、
たいていワイの勝ちに終わっていたんや。

ようするに、ワイは泥団子を固く握る才能があったというわけや。

その伝で、ワイは雪の球をすばやく固く握ることも得意やったんや。
もう、カッチカチの、石みたいな雪玉をパパパっと作れたんやなー。

でも、さすがにその石みたいなのを人にぶつけるわけにはいかんからなー。
そんな雪玉を作ったとしても、ぶつけるのは塀とかやったし、
もし人にぶつけるなら、ある程度やわらかい雪玉に仕上げるわけや。

さて、その雪が積もった日、ワイは学校帰りに、
ともだちのヨシダとサハラと、わいわいと雪玉を投げ合ったりして遊んでたんや。
そして、ちょうどワイの家の前にきたんや。

そこには、いい感じに雪が積もっているわけや―。

「さあ、私たちを、雪だるまにするなり、
 雪の球を作って雪合戦をするなり、
 大いに、わたしたちを使って、おあそびなさい。ぼうや。」

と積もった雪が言っているみたいに、魅惑的なんやー。

ワイはめちゃめちゃ固い石のような雪玉を何個かつくって、
塀の上に並べ始めたんやな。

ヨシダとサハラも雪玉を作っては、投げ合って、「やめてやめて!」とかキャッキャいうて遊んでるわけや。

で、ですわ。
そこは、ワイの家の前やがな。
ジョイが、小屋から出てきたんや。

そしたら、ヨシダが、

「あ、ジョイが出てきた、ジョイにぶつけようぜー」

と言って、ジョイに雪玉をぶつけ始めたんや。
それがジョイにボコっと当たったんや。
「あ、当ててるやん!ワイのかわいいジョイになんてこと!」
と思っていたら
ヨシダは調子に乗ってまたジョイに雪玉を当てたんや。

ジョイの困った顔。痛そうな顔。
そしてヨシダの、鼻水は垂らしていないけど鼻水を垂らしたようにしか見えない
調子にのった、へらへらした顔。

それを見たとたん、
ワイの中の何かしらのスイッチが入ってもうたんやな。
ワイは叫んでいたわ。

「ジョイをいじめるなあああ!
 このちりめんじゃこがああああ!!!」

ワイは、かったいかったい、まるで石と同等の硬度にまで握り固めた雪の球を
思いっきり、フルパワーで、ヨシダめがけて投げたんや。
「殺意を持って投げた」といってもよろしい。
殺意ということはつまり
「しねやああ!」
と、殺そうと思って投げているということやんか。

それが、
ボッコおお!!!
ってヨシダの背中に命中したんや!
はうううってヨシダは息が止まったような声を上げた。
ワイは勢い余ってもう2回続けてヨシダの背中に雪玉をブチ当てて、
そこで「はっ」と我に返ったんや。

あかん、これ、ワイ、やりすぎや。

ヨシダは痛みにしばらく身もだえしていたが、
痛みが治まり、息を整えると同時に、

「うおりゃああああああ!!!!!」

と、血相変えて、涙目でこっちに向かってきたんや。

たしかにワイはやりすぎたからそりゃ怒るわな―。
「だって、おまえがジョイをいじめたからやろー!」
と言いながら逃げたんやけど、つかまってしまって、
今度はヨシダのほうが殺意全開やんか。
ワイの背後を取って、そのままぶん投げたんや。
ようするに、プロレス技の「バックドロップ」をしたんやな。

あれ、雪が10センチつもっていたから無事に済んだけど、
雪が積もってなかったら、下はアスファルトやで。

ワイ、死んどったかもわからん。

「あほか!道路でバックドロップする奴があるか―!」

ということで、今度はヨシダが「やりすぎた」となって、
笑って一件落着となったんや。

こうしてみると昭和の中学生ってバイオレンスやなー。
そして、サハラは登場人物として必要なかったかもしれないなー。

この雪の日のできごとは、

「ワイ、ジョイのために怒ったで!
 ジョイをかばって、殺るか殺られるかの勢いで、戦ったで!」

っていう、誇らしい思い出なんやな―。

めでたしめでたし。

(つづく)

2 件のコメント

  • で、でたーー!!!

    大名言「この、ちりめんじゃこがあああ!!!

    オカダとヨシダはちりめんじゃこです。

    ワイの頭にインプットされております。

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