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二十八粒目『泣いたマルコメ①』

「実力さっ!」

とマルコメは叫んだんや。
こっちを向いて、ガッツポーズを作って。
なすびときゅうりから、ぼっこぼこに、
蹴られたり、ぶたれたりしながら。
「実力さっ!」とさけんでいた。
そのときマルコメは泣いていなかった。
絶対に、泣いていい場面ではなかったんや。

――と、これがどういう状況であるのか。
まずは、みなさまがイメージできるように、
背景から説明してまいりましょうね。


「マルコメ」というのはヨシダのあだ名で、
そう呼ばれていたのは、ヨシダがまるい顔で、坊主頭だったからだ。
だれが言い出したわけでもない、
その時代に、ヨシダの風貌を見たら、100人中、98人ぐらいは、
「マルコメ」と呼びたくなったはずである。
それぐらい、当時のマルコメみそのCMに出てきた小坊主のイメージにピッタリだったんや。

マルコメは小学校4年生になってから転校してきた。
マルコメがきた日、最初の授業がなぜか自習時間になって、
なぜかワイが教卓に座って、
みんながおとなしく自習するように監視する役目を与えられた。

そしたら、転校してきたばかりのマルコメがいちばん前の席、
つまりワイの真ん前に座っていて、
やたらとふざけちらかすのだった。
だから、ワイは役割柄、注意しますがな。

「ヨシダくん、しずかにしてください。」

そしたら、マルコメはへらへらしながら、こういったんや。

「おう、おめえが学級委員長か。しけたツラしちょるのう~。」

「ヨシダくん、しずかにしてください。」

「おんなじことしか言えんのか。もっと気が利いたこと言ってみれーやー。へへへ。」

「ヨシダくん、マルコメみそのものまねが得意なのはわかりましたー。しずかにしてください。」

それがマルコメとはじめて交わしたやりとりであった。
それからマルコメの家がワイと同じ町内だとわかって、
一緒に帰るようになり、
一緒に遊ぶようになったってわけや。

マルコメの特徴的なのは坊主頭のほかに声で、
小学生とは思われないガラガラ声であった。
いちど、5年生の時だったか、夏の高校野球の地区予選大会を見に行った時、
マルコメが受付の女子高生のお姉さんたちに、
「宇部商はどっちのスタンドですか?」
ときいたことがあったが、そのあまりのガラガラ声がウケて、
「ボク、すごい声してますねえ」とガラガラ声をまねされていた。

マルコメの体つきはふつうサイズでちょっと丸っこくて、
かんたんにいえば小太りや。
運動神経はさほどよいわけでもなくて
よくしゃべって
ひとことでいえば、お調子者で、
基本、ニコニコしていて、ゆかいなやつだった。

マルコメの家族はおとうさんとおかあさんとおねえちゃんとおばあちゃんで
木造の二階建ての古い家に住んでいて
よく遊びに行ったが、家族の皆さんはみんな気がよいひとたちで、
あかるくて、きさくで、やさしい、という印象やー。
「しょっちゅうけんかもするけどなかよし家族」っていう感じやったなー。

なかがいいから、遠慮なくものをいえる、ということがあると思うんや。
マルコメとマルコメのお母さんは、そういう関係のようやったー。
よく小言をよくいわれているのを聞いたけれど、そのたびに、マルコメは言い返しもする。
でも、そこに関係が断裂するようなとげとげしさはなくて、
言い合う中にも、その底には絶対的な信頼があるっていう感じがしたなー。

「わしのかーちゃん、ぶすじゃろ?
なんでとーちゃんはかーちゃんと結婚したんじゃろ。
まえにとーちゃんになんでおかあさんとけっこんしたん?
おかあさんはすげえぶすじゃあね。って聞いたら、
『むかしはかわいかったんじゃがのう』
っていいよった」

と言ってたなー。
つまり、いい家族やったんやな。
そう見えてた。

さて、そのころ、小学校では、地区対抗の行事がさかんやったんや。
季節ごとに、地区別に分かれて男女の混成チームをつくって、
ソフトボール大会や、ポートボール大会が行われていたんや。

そんなわけで、その大会が近づくと、地区の子どもたちで集まって練習するんや。
ワイらの地区は小さな地区で、弱小地区やったから、
ほぼほぼ全員参加のかんじで、地区の子どもたちは触れ合う機会ができて
まあまあ、みんな、なかよくなっていた。

よかったことに、ワイらの地区では、ひとつ上の学年に男子がいなかった。
だから、ワイらが5年生になった時、
ワイやマルコメが男子のリーダー格になっておった。
ま、ワイもマルコメもしょぼいから、ほかの地区やったら補欠扱いになってたかもしれんけど、
お山の大将といいますか、ワイらの地区ではワイとマルコメが主力選手やったんや。

さて、男女混成チームがルールなもんで、女子もかならず参加するんやけど、
女子は1つ上の6年生に、二人いた。
二人ともけっこう体が大きい女子や。二人の女子はなかよしやった。

この二人の女子を、ワイら男子軍、
ワイとマルコメを筆頭とする、ちりめんじゃこみたいな軍団なんやが、
その男子軍は、
「なすきゅうコンビ」
という名前で呼んでいた。

この呼び名の由来だけれど、女子の一人が、なすびに似ていたんや。
これは申し訳ないけど、本当に、どこから見ても、なすびに似ていたんやな。
もしかしたら、言い出しっぺはワイで、ワイがこそっと「なすびに似てない?」って言ったのが、ウケてしまって、あっという間に広まったんやったかもしれん。それは本当に申し訳ないと思ってる。
そしたら、もう一人の女子は「キュウリや」、と2歳年下のトモジロウか誰かが言うたんやないかなあ。
そういわれてみると、キュウリの方もキュウリにしか見えなくなってきて、
なすびと、きゅうり、あわせて「なすきゅうコンビ」という名前が付いたんや。

さて、ワイらが、なすび、きゅうり、と呼ぶものだから、
とくに、学年が下の子らがはしゃいでしまって、
「なすび、なすび」「きゅうり、きゅうり」
とはやしたてるもんやから、なすきゅうも基本ワイらに腹を立てていて、
敵対関係というか、緩やかな緊張関係にあったわけや。

「あいつら、あたしらを、なすびだのキュウリだの呼びやがって、生意気な―」

そしてそんななかでも、やっぱりというか、マルコメがいちばん、憎まれるんやな。
それはマルコメがお調子者で口数が多いところもあって、しょっちゅう揶揄っていたからだし、それから根本的に、マルコメは小憎たらしいキャラなんや。声からも容姿からも、憎たらしいエキスがたっぷりふくまれているとこあったんやな。たぶんな。

ワイはといえば、なすびがすぐ隣の家で、お姉やん(なすびより1学年上)がなすびとちょっと仲良かったりしたから、正面切ってなすびだのキュウリだの言ったことはなかったし、家庭のしつけもあって、年上に対しては一目置くようなところがあったから、さほど、なすきゅうに敵対視されているところはなかったと思うんやな。

さて、そんな、ある日のこと、
町内の広場で、その事件は起こるんや。

(つづく)

2 件のコメント

  • 女子参加させる制度が悪い

    ほんま嫌やったわ

    男子は嫌々参加してくれる女の子がいるおかげで成り立っていることを忘れないで欲しい。

    やばいまだ1話なのにマルコメに腹たってきたぞ

  • なすきゅうか〜、どちらも私からしたら羨ましい。

    マルコメ父、

    「昔は可愛かったんやけどなぁ〜!」って。それは、KINKU

    変わるから、みんな。思ってるより変わっちゃうから!

    ウチの子、友達から

    「お前、橋の下やろ〜」って前に言われたらしい。信じそうになってたから笑ける。

    確かにわたくしと体型は全く違うしな。父親とも顔が全く違うしな。体型は似て良かったな。

    マルコメ、いらん事言わん方が身のためやで〜。

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