高校2年生の6月に、修学旅行に行った。
数日間、ジョイに会えなくなる。
帰ってきたときにジョイが生きてるか心配しながら修学旅行に行った。
帰ってきたらジョイはふつうにしとった。
よかった。
ワイがおらん間に、ジョイが死んぬなんて、あってはならない。
ワイは安心した。
しかし安心したのもつかの間、
ある日、せき込んだジョイが、
赤黒い血を吐いた。
血を吐くなんて尋常じゃない。
病気が進行していること、
先は長くないこと、
ワイらは予感した。
けれど、血を吐いてからも、ジョイは目に見えて衰弱するということはなく、
相変わらず、散歩もしたし、食べ物にも口をつけていた。
「いつ死んでもおかしくない」
という思いがありながらも、
散歩に出かけたり、えさを食べたりする姿からは、
「まだ大丈夫や」という手ごたえもあった。
そんなある日、ワイが外出から帰ってくると、
家の玄関の前にお姉やんがおってな、
そのそばにジョイもすわっておった。
聞くと、ジョイがまた血を吐いたっていうんやな。
おねえは心配してずっとジョイのそばにおったんやな。
ほんでワイがジョイを
だいじょうぶかーってなでているとやな、
おねえが、
「はあー。あんたが来たら、急に元気になったよ、ジョイ。
さっきまでぐったりして元気なかったのに。
やっぱりジョイはあんたに会うといちばんうれしそうにするね。」
そう言うと、家の中に入っていった。
ワイはジョイと二人になった。
ワイはジョイをハグして、なでなでしておった。
大丈夫かー。いうて。
そのときや。
「あれ?」
とつぜん、ボロボロボロボロ~って
つぎからつぎへとなみだがでてきたんや。
あれえ?なんじゃこれ?
となって、ワイは
「ジョイちょっとごめん」
といっていったんジョイから離れたわ。
なんで?止めようとしても止まらん。
次から次へと涙がこみあげてくるんやな。
なんでやー。泣きたくないのに。
泣こうとしていないのに。
涙が自分の意思とは関係なしに、
止められずあふれ出てくることがあるんやと、ワイはこのときはじめて知った。
「あ、ジョイは死んだんやな。」
ってワイは思った。
本当は、ジョイはもう死んだんやないかな。
だから、ワイは涙が止まらないんや。
じゃあ、いまここにいるジョイは?
たぶん、ジョイはワイが修学旅行に行っている間かなんかに
死んでしまったんや。
そして、神様にお願いしたんやろ。
「かみさま、わいは死ぬのはええんですけど、
わいの飼い主のアホ、あれが家に帰ってきて、わいがしんでたら、
わいに会えないで死んでしまったといって取り乱しますから、
すみませんけど、もうちょっと、生きさせてもらえませんか。
わいが死ぬことをあのアホが受け入れられるように、
もうすこしだけ、時間をくれませんか」
そういうて、
たぶんジョイは、
「小屋のそばの地中に隠している骨がありますからそれをさしあげます」
とか言うて、神さまは心を動かされたんやろな。
それで、ジョイがまだ生きている今があるわけや。
ワイの前にジョイがいるのは、ボーナスタイムなんやろな。
ジョイは死んだけど、ワイのために生き返って、もうしばらく、いてくれているんや。
次にジョイがほんとうに死んだときに悲しまなくてすむように、
ワイはいまここで、あらかじめ、涙を流しているんや。
涙をこらえようとしても
しばらくの間は、止まらずにぼろぼろ涙が出て鼻水が出た。
ようやく収まってきて、
ワイはジョイのそばにもどった。
ジョイはワイの目を心配そうに見た。
それからゆっくりしっぽを振って、
ぺろぺろ舐めてくるんやな。
ワイはジョイをふんわり抱いて、なでながら
心のなかでいっしょうけんめい伝えた。
ジョイ。
ジョイはうちうに来てよかったんかな?
ワイらに飼われてよかったんかな?
すまない気持ちでいっぱいや。
ジョイ、初めてうちに来たとき、ジョイは夜どおしないたんや。ジョイはお母さんに会いたかったんやな。それでいっぺん帰されたよな。
小さかったジョイ、いっぱいあそんだなあ。
家の周りを走り回った。ジョイはうれしそうに毬のように走ってたなあ。
でもごめんなー、鎖につなぐようになって、ジョイはすねてしまったよな。
小屋の中で丸まって、ワイらをじろりと見とった。
そんなジョイにワイは腹を立てた。
ジョイをいじめたこともあった。
ごめんな。
ほんまごめん。
それでもある日、野球部の練習があんまりにも退屈で、ワイはジョイがなんでそんなに拗ねてしまったのか、わかった。反省した。
それからはいっぱい散歩するようになったなー。
あの日、犬小屋から出てきて、しっぽを振ってくれたー。
ほんとうにうれしかったんやー、あのとき。
ずっと許されなくてもしかたないと思ってからなー。
ジョイは強くなったよなー。ワイが鍛えたんやで。
けんかで負けたことないもんなー。
野犬のリーダーにもなったよなー。なんやあれー。びっくりしたわー。
ヨシダのアホがジョイに雪の玉ぶつけたことあったよな。
ワイはジョイのために怒り狂ったで。骨が折れるぐらい固い雪の玉ぶつけてやったわ。
ワイはジョイに感謝しかない。楽しいこといっぱいやわ。ありがとうな、ジョイ。
でもだからって、ワイがジョイに何かを十分にしてこれたのかどうかわからん。
ジョイが幸せやなって感じて生きてた時間がどれだけあるんやろ。
ジョイはうちに来てよかったんかな?ってワイはいつも思ってるんやー。
ジョイごめんな。
びょうきになって、たおれるようになって、
ワイは何もしてやれなくて。
ジョイはあとどれぐらいこの世にいられる?
ワイ、あとどれぐらいジョイと一緒にいられる?
きょうも血を吐いて。
くるしかったやろ。いまもくるしい?
ワイ、何もしてやれてない。
それなのに、ワイを待っていてくれたんやな。
ワイに会うとジョイはいちばんうれしそうにするって。
なんで。ワイみたいなもんを。
ジョイ、ごめんな。
ありがとうな。
ジョイ、大丈夫や。ずっとジョイのそばにおるで。
ずっと、ジョイの味方やからな―。
ジョイジョイジョイジョイ。
それから、何日たったのかなー。
いや、何週間か経っていたかな。
ジョイはまた何回か、血を吐いていた。
血を吐くたびに、吐く血の量が多くなっていった。
そのたびに牛乳を与えていたけど、
ゆっくりだけど、牛乳は飲んでいた。
その夜、なんでワイはジョイのそばにおったんやろ。
その日も、血を吐いたんやったかな。
もしくは、ひどくせき込んでたのかな。
よく覚えていないけど、
ワイは夜に、一人で家から出て、ジョイのそばにいて、看病してたんや。
晴れた夜やった。
ジョイがどこかに行きたがって、ワイは鎖からリードに付け替えた。
「どこでも行きたいところ行きや、一緒に行こうな」
って、いうたけど、
ジョイは門の外には出ないで、うちの表の庭のほうに移動して、
出窓の下で、へたり込んでしまったんや。
それから、一時間近く、ワイはジョイのそばにいたんじゃないかなー。
ジョイは苦しそうな、荒い息をしていたと思う。
ワイは牛乳をもってきて、ジョイのそばに置いた。
でも、ジョイは牛乳を飲まなかったんや。
はじめて、ジョイが牛乳に関心を示さなかった。
それで、予感がしたんや。
それから、ジョイは急に立ち上がった。
最後の力を振り絞るようにして、立ち上がった。
「ジョイ」
とちいさく呼んだ。
でも、ジョイはもうワイのほうを見なかった。
ジョイはよろよろと、よろよろと、
ワイに背を向けて、
夢の中をさまようみたいな足取りで、庭の土の上を進んだ。
今にも倒れそうなジョイをワイは追った。
ほどなく、ジョイの足は体を支えられなくなり、
ジョイの体は不格好に、地面に崩れ落ちた。
今度は、「てんかん」の時のような倒れ方ではなかった。
足をバタバタさせることもなかった。
ジョイは地面に横たわって、最後の呼吸をしていた。
ゆっくりゆっくりジョイのおなかが上下していた。
ジョイの口がわずかに開いて、声にならないようなちいさな声が聞こえた。
なんも言わんでいい。もう苦しまんでいい。
そしてジョイのおなかの動きは少しずつ弱まっていき、ついには動かなくなった。
「ジョイ」
ジョイの体に触れて、ジョイの体が硬くなっていくのを感じた。
ジョイが死んだ。
涙は出なかった。
ワイはジョイの最期にずっとそばにいた。
(つづく)
2 件のコメント
今日も暑くなるって天気予報では言っていたのに、やれやれ、朝から塩気を含んだ雨が降ってるよ。
考えさせられるなあ。
でも、ジョイは変わった。飼い主が変わったから。それが答えではないでしょうか。
うちの子はどうだろう。ずっと檻に閉じ込められて。今なんて一緒に住んですらいない。可哀想だ。でも、私が1番あの子たちがなんて言ってるか分かるんだ。私が1番愛している。
でも、あの子達にもいつかその日が来るの、本当に怖いなあ。
ジョイは、飼い主さんのそばにいて幸せやったと思う。言葉も通じひんのに自分の気持ちを一番に理解してくれた人、誰よりも沢山外の世界を見せてくれた人に出会えて嬉しかったに違いないんちゃうかな。今回は犬と人間という形で出会ったけど、少し休んだら又何処かで出逢えるはず。だって、それが縁やと思うから。今世だけでなく、前世だって来世だってきっと会えてたし、また会える。いやもう会えてるかもしれん。前の記憶が消されてしまって覚えてないだけで。ほら、あるやん、初めて会ったのに懐かしい感じのする人、、、。きっと大切な存在やったからそう感じるんちゃうかな?
昨夜は私も前にいた🐶ワンちゃんBを思い出して涙が止まらんかったな。でも亡くなった時に祈ってん私。今度生まれ変わる時は、私よりうんと長生きするように!今度生まれ変わる時は、もし叶うなら!叶うとするなら、私の子に生まれ変わってくれますようにと。高齢出産で命懸けで産んだ我が子。
見た目はBとかなり違うけど、頭の匂いがおんなじなんはもしかして、、。