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六十六粒目『ようちえん①』

ワイは楽しく日々を過ごしていたのに、ある日「ようちえん」ということろに入れられてしまった。
よくわからないが「ようちえん」の「にゅうえんしき」っていうのにお母さんに連れていかれたのだ。
なんか窮屈な服を着せられて!

そこにはひとがいっぱいいた。
ガキどももいっぱいいた。
おもしろくなかった。
早く帰りたかった。

そしたら、なんか、ガキどもだけが集めらはじめた。
順番に、それぞれおのかあさんと思われる人から、がきどもが引きはがされて、
がきどもだけで、ひとかたまりの場所につれていかれて、座らされている。

たいていの子は、おとなしく、せんせいにつれていかれるのだが、
なかには「わーん」と泣き出す子がいて、
そういう子は、母親のもとに返されている。
なんや、泣いて。カッコわる。と思った。

ワイのおかあさんが
「あんた、泣かんことよ。これからひろくんも、せんせいに連れていかれて、おともだちといっしょにすわるんだからね。ないちゃあ、だめよ」
といった。

ワイは、「うん」とこたえた。
そうこたえながら心の中で、
「泣いたら、おかあさんのもとへ、もどしてもらえるみたいやな。ほんなら泣いたろ。」
と決めていた。

ワイの順番の前で、近所のゆみちゃんが、せんせいにつれていかれた。
ゆみちゃんは、おとなしくつれていかれて、なかなかった。
そして、次はワイのばんや。
ワイは先生につれられて、おかあさんから引き離された。
よし、ここや!
ワイは計画通りに、思いっきり泣いてやった。
そしたら、お母さんのもとに連れ戻された。
「しめしめ」
とおもった。
しかし、おかあさんはぶつぶつぶついうとった。

「なんで泣くんやー。ゆみちゃんは泣かんかったのに。あんたは泣いてから。ほんま泣き虫や―。」

ふんっ、ておもった。

そして、にゅうえんしきは続いていたけれど、ワイは途中で、ようちえんを抜け出した。
こんなとこ、おれるかい。つまらん。
そして、家まで歩いてかえった。
そうして、気持ち悪い服を脱ぎすてて、お気に入りの水色の服に着替えて、
たたみの部屋で、ひとりで、ミニカーで遊んでいた。

しばらくしたら、おかあさんがバタバタと帰ってきて、

「あんた!かってにぬけだして!しんぱいしたよ!」

とか、ぎゃーぎゃー大げさにさわいだ。

なんでも、園児がいなくなったといって、ようちえんでひとさわぎやったそうや。
しるかいや。そんなもん。
こっちだって、かってにつれていかれて。
おもんないのに。
かえるやろ、そら。

このできごとは、かなり長いあいだ、
この子はようちえんの入園式を脱走してえらい騒ぎになった。
みんなで探し回って、
「もしかしたらいえにかえっているかもしれませんのでいえに帰ってみてきます」
といって、どうか無事でいてくれ、と急いでかえってきたら、
ちゃっかり服を着替えてミニカーで遊んでた。
といって、話のネタにされた。
(あのあと、わいはまた無理やり制服に着替えさせられて、自転車に積まれて、ようちえんに連れていかれた。)

そんなわけでワイはようちえんに行くのが大きらいやった。
行きたくなかった。
ようちえんの制服も大きらいや。
白いシャツに、灰色の半ズボン。
えんじ色の蝶ネクタイ、黄色のベレー帽。
なんやこれ。
なんでこんなもん着るんや。
しかも、ワイの蝶ネクタイ、みんなのと違うんや。
みんなのは、ちゃんとピシッと、横に広がった蝶ネクタイや。
ワイのは、なんか、だらん、と両端が下に下がっとるやんか。
なんで?お古やから?
みんなとちがうやん。わいだけ。
かっこわるううううう。

それからワイ、きいろいベレー帽が大きらいやった。
とくに、ベレー帽の頭頂部分に、リンゴのへたみたいに、
ちょこんと、細長い布がついている。
あれがもう、我慢ならん。
あんなきもちわるい帽子かぶっているぐらいなら死んだほうがましや!
とおもって、かぶるのを断固、拒否したけど、
かぶれかぶれ、なにがいやなんじゃ?かわいいじゃないか。
とうるさいから、その、ベレー帽の、「へた」の部分を引きちぎって、
それでようやく、ギリギリ、かぶれるデザインの帽子になったので、
それをかぶっていった。

なんでみんなあんな恥ずかしいものかぶっていられるねんっ!

それで、まいあさ、いやだなー、いきたくないなー、
と思いながら、ようちえんに通いだしたんや。
なんじゃ。ようちえんって。
なんじゃ。なんじゃ。なんじゃ。なんじゃ。

(つづく)

2 件のコメント

  • 入園式のこと、もう忘れてしまいましたねぇ。こんなに細かく覚えているなんて。蝶ネクタイがピンと張っていて、ベレー帽の中央のヘタみたいなんが無ければ、水色の制服だったなら、もう少し嫌な気分から逃れられたかもしれないですね。こんな風に、行動に移してみたかったです。

    幼稚園の時に、いつも美容室でマッシュルームカットしてもらっていたんですが、その帰り道にケーキ屋さんを通るんですね。わたしはチョコレートでコーティングされた少しお高めのタヌキのケーキが食べたくて食べたくて。でも、お金がない。マッシュルームカットしてもらって支払った後のお釣りを見た時、イチゴ味のカップに入ったかき氷しか買えない釣り銭。食べたいのはチョコのタヌキケーキ。でも買えないから50円のイチゴ味のかき氷。それで我慢して、お釣りが50円。買って帰ったら、戻してきなさいと。勝手にお釣りで買ってきてはいけなかったのです。溶けかかったかき氷を持って泣きながら返しに行きました。幼稚園児の時の記憶はこれが一番忘れられないですね。一人で戻しに行く時に辛かったこと。そんなに悪いことをしたのか?というヤキモキした気持ち。今となっては教育の一貫だったのだと理解できるけれど、どうして一人で行かせたのか?私ならどうするだろうか?などと考えてしまいます。子どもが幼い時は厳しめだったように思います。同じようにしてしまうんです。でもね、ある時気付くんです。これは違うと。意味ないと。子どもにも子どもの相当な人格がある訳で、説明が下手でも聞く必要があるんです。待つ力を親や大人が試されてるんやと思います。子育てって、自分が育ててもらってるんやわ〜ってつくづく。

    子どもの頃に、喜怒哀楽を率直に親に見せれる事は、多分子育てに成功失敗って言葉があるとするなら、成功なんやと思います。あと、泣いたらお母さんの元に行けると思ってグッドタイミングで泣けたのは、ひろちゃん、あなたは一流俳優さんですね。見てみたかったです。

  • 記憶ありすぎでしょ(°○°…)

    おもろすぎて旦那にも見せました^^

    自分もガキなのにガキどもって😂

    お母さんのとこに戻りたいのも可愛いし、お母さんにブツブツいわれてふんっ!って思ってるのもかわいい😂

    制服?って言うのか?が、気に入らなくて、帰ってすぐ脱ぎ捨ててお気に入りの服に着替えるのもかわいい😂

    ベレー帽はあのリンゴのヘタみたいなんがかわいいのにっ!え?幼稚園児があのヘタ引きちぎったんですか?恐ろしい子っ!

    小さいワイさんを経て今のワイさんがいるというのが何とも納得いくというか、しっくりくるというか。変わったようで変わってないというか。

    いや変わったんだろうけど、面影があるみたいで、ほんまおもろいお話でしたわー!

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