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六粒目『ホタテがおこった理由①』

だれかの言葉が
それも、目を合わせて言われた言葉が

「ああ、そうやなあ。
 ええこと聞いた。
 ワイ、これから、そう心がけて生きていこう」

と、胸に刻まれることがある。

その言葉を、のちに思い返したときに

「あの言葉、しかし、どういう意味やったんやろ」

と、みびょーな感じに思われることがあるとしても

その場の雰囲気で
その現場にあっては
はあーって、腑に落ちて
いったん、心に刻み付けられた
そんな言葉があるでしょう。


それは、ワイが中学の二年生のときのことや。

「ホタテ」というあだ名で呼ばれる体育の先生がおったんや。
その当時、テレビで
安岡力也さんという、体のおおきな俳優さんが
コントで、ホタテの着ぐるみを着て
「ホタテマン」というキャラクターを演じておったんやな。
♪ホタテをなめるなよ~
みたいな歌も歌ってたわ。

「ホタテマン」に似ているとだれかが言い出して
「ホタテ」と呼ばれていたその体育の先生なんやけど
実はそんなに似ていなかった。
からだがでかくて、こわい、という共通点で
「ホタテ」とよばれていたんやけど
だれも正面切ってホタテに「ホタテ」とは言わへん。
なぜなら、こわいから。
「ホタテ」なんて言うたら、確実にしばかれて、
あばらの一本はへし折られかねない、という怖さがあったんや。

ホタテは、柔道何段とかで、もう、めっちゃ強いらしかった。
その当時、何年か前に、オリンピックの柔道の無差別級で、山下選手が金メダルを取った。
その山下選手のことを、ホタテは「やました」と、呼び捨てで話してた。
よくわからんけど、柔道界には年齢による上下関係があって
それでホタテが先輩やから、「やました」とよびすてにしているということなのか
はたまた、じつは山下よりも強かったのか、その辺はモヤの中だけれど
「やましたがのうー」とか話すもんだから
オリンピックの金メダル選手が自分の手下やで、みたいな空気を出すもんやから
ワイらは、半信半疑なところはありながら
ホタテには得体の知れないおそろしさを感じていたもんや。

さて、あるとき、ワイら、2年生は、宿泊訓練に出かけたんやな。
広島の江田島にある、青少年のなんちゃらいう施設や。
海上を軍艦がゆっくり動いておってやな、
それをみて、ワイ、ひょえー、と身がすくんだのを覚えてるな―。
基本的にワイは大きい人工物がおそろしいんやな。恐怖症やねん。
軍艦でかっ!こっわー。これに攻撃されたらたまらんよなー。
こわいわー。戦争反対。って思ったわー。

さて、事件は、夜になって起こった。
生徒は何人ずつかに部屋に分かれて寝るんやけど
先生用の宿泊室がないのか、足りないのか、何なのか
何人かの先生は、生徒の部屋に一緒に寝るということで
ワイらの部屋にも誰か先生が寝るということを聞いていた。

そしたら夜になって、
夕ごはんの後ぐらいかな、
シカモリ先生っていう、50代のおじさん先生やな、
中肉中背の、眼鏡をかけた、国語の先生や。
その先生がワイに声をかけてきて
「わたなべ(ワイのことや)、わたしはお前たちの部屋で寝るから。
わたしの寝床も用意しておいてくれ。たのんだぞ」
っていうたんやな。

そうか、シカモリ先生がワイらの部屋で寝るんやなー。
それで、ワイは、部屋の奥のほうに、シカモリ先生用と思って、布団を敷いたわな。
それでまあ、夜の団体行動のプログラムがすべて終わって
自由時間になって、歯を磨いたりして
消灯前に、ワイら、なんやかんやくつろいでおったらやな
そしたら、ワイらの部屋に、ホタテが入ってきたんや。
ほんで、奥のあいている布団を見つけると
「わし、この布団使ってええんじゃなー!?」
といって寝転がって布団をかぶっておやすみの体勢に入ったんやな。

あれえ、と思ってワイはホタテに声をかけるわな。

「コマツ先生、シカモリ先生がここで寝るっていってましたよー」

そしたらホタテは寝ころんだままで

「なにい?シカモリ?シカモリが何の関係があるんじゃ。ワシがこの部屋で寝るんじゃー。」

と言って、まったく聞く耳を持たない態度やねん。
えーどうなってんの??と思って、
ワイは部屋を出て、シカモリ先生を探しに行ったわな。

それで首尾よくシカモリ先生を見つけて

「先生、布団を敷いたんですけど、ぼくらの部屋にコマツ先生が来て、その上に寝ました。
 どうしましょう。布団もうひとつ敷きましょか?」

って聞いたんや。
そしたらシカモリ先生は

「なんだと。それはコマツ先生がまちがえている。
 私がおまえたちの部屋で寝ることになっているのだ。
 コマツ先生は別の部屋で寝るのだ。ちゃんと部屋割りがしてある。
 部屋に戻って、コマツ先生に、お部屋を間違えていますよと、お伝えしなさい。」

ちなみに、年齢はたぶんシカモリ先生のほうが、ホタテよりけっこう上や。

なんや、ホタテ、部屋まちごうとるんかいな。
酔うてんのかな?まったく。

と思ってワイは部屋に帰って、ほとんど寝息を立て始めているホタテに声をかけるわけや。

「コマツ先生、すみません、先生の部屋はここじゃないって、シカモリ先生がいってます」

「さっきからなんじゃ、おまえはー。」

ホタテは布団の上に身を起こすと、

「ワシはここで寝る。
 シカモリがここで寝るって?
 シカモリはほかの部屋で寝たらええ。
 おまえ、シカモリのとこに行って
 言うてきてくれ。
 ここがワシの部屋じゃ。ワシはここで寝るんじゃ。
 シカモリは別の部屋で寝ればええ。
 それでええじゃないか。
 わかったな。シカモリにそう伝えてこい。
 わしはねむい。」

ワイはこまって部屋を出たわなー。
そしたら同じ部屋の今川くんがついてきた。

「なんかたいへんじゃのうー。ホタテ、酔っちょるんかのう?
シカモリんとこ行くんじゃろ?おれも一緒についていっちゃる。」

それでワイと今川くんの二人で、シカモリ先生のところに行ったんや。
シカモリ先生は、もっと年上のおじさん先生の、主任格の、ウスキ先生といっしょにおった。
二人で囲碁か将棋でもしとったんかな?

ワイと今川くんが事情を話した。

「コマツ先生が布団の上から、うごきません。
 ここでワシは寝る、ここがワシの部屋じゃ、
 シカモリは別の部屋で、シカモリ先生は別の部屋で寝ればええ、
 って言ってます」

 ウスキ先生があきれたかおになって

「あのひとはほんま、しょうがないのうー。
 やれやれ。シカモリ先生、ワシも一緒に行きますわー。」

こうして、ワイと、今川くん、ウスキ先生、シカモリ先生の四人で、
コマツ先生が陣取っている、ワイらの部屋へ向かったんやな。

(つづく)

2 件のコメント

  • いつになく!!!!続きが気になる!!!!タイトルからしてホタテ逆ギレ!?!?なんやこいつー!偉そうにー!

  • なんかホタテが食べたくなってきたー!今川焼もそばにあって、いやこちらでは御座候というんだよ。ウイスキーは飲めないけどお砂糖かけたグレープフルーツには良く会うんよなあ〜!って。食べ物ばかり浮かんできてしまいます。コマツ先生は昔お世話になった国語の先生におったし、シカモリ先生はお初です。自然豊かなお家柄なのかしら?木根森せんせーならいたわ!そういえば昨日又名前の漢字間違われたな。辺じゃなく部なんだけども、よく、間違われる。下の名前で呼んでくれる人が減ってきたよ。さぁ、ホタテTはどんな反応するのか?そもそも、行ったりきたり「わい」の行動がお疲れ様すぎる。それは、先生がせなあかんお仕事ちゃいます?って思うのね。

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