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十一粒目『40年目の自白』

「魔が差す」というのでしょうか、
思いもしてなかったことを、
その瞬間だけ、
なぜかやってしまった。
そういうことがないでしょうか。
後から考えても、なんでそんなことをしてしまったのかわからない。

ひとは、どういうわけで、
思いもしていなかったことをしてしまう瞬間があるのでしょうか。

小学6年生のときのこと。
わたくしはそのころ、近所の吉田くんとよく遊んでいて、
ある日、日曜日の、あれは午前中だったと思います、
吉田くんの家に電話をかけました。

吉田くんとわたくしは当時、小学校のクラスが違っていて、
吉田くんは5組で、わたくしは3組でした。
いつもは電話をかけると、たいてい、吉田くん本人が出るか、
お父さんか、お母さんが、電話に出るのです。

けれど、その日、電話に出たのは、高校生のお姉ちゃんでした。

「はい、もしもし。」

その声を聞いて、わたくしは、予想外のことに、面食らってしまったのでしょう。
いつもは、
「わたなべですけど、まさるくんいますか?」
というのですが、

「あ、よ、よしだくんのおたくですか?」

と、いつもとは違う感じで入ったのです。

「はい、吉田ですけど。」

といわれて、緊張から、
「わたなべですけど」というのを言いそびれてしまって

「まさるくんいますか?」

とだけ言ったのです。

さて、この、吉田まさるくんのお姉ちゃん、
「吉田はつえ」さん、なのですが、
以前にわたくしが吉田くんの家にいって、
一階の部屋でわいわい遊んでいたところ、
急に2階から、
どどどどどどどどどどど
という爆音とともに階段を駆け下りてきて、

「あんたうるさいんちゃあね!!!
 テスト前やけー、しずかにしろってゆうたじゃろ!」

と、ものすごいヒステリーを起こして、
わたくしの目の前で、吉田まさるを思いっきり、
いっさいの手加減なしに、思いっきり、
しばき転がしたことがあって
吉田まさるはかわいそうに半泣きになっておりましたが
「よ、よしだのねえちゃん、こええええええ」
と恐怖を覚えた――ものすごい勢いやったもんで、
一瞬、登場した吉田くんのお姉ちゃんの髪の毛が蛇に見えたぐらいで、
そんな記憶があったせいで、緊張してしまったのだと思います。

「まさるは、今、でかけてていないんですよー。
すぐ帰ってくると思いますから、帰ってきたら電話させましょうね。
おなまえ聞いてもいいですか?」

受話器越しに、吉田くんのお姉さんの声が、そう聞こえてきて、
ワイは、

「梅田です」

と。
なんで梅田やねん。でも、なぜか、気づいたときには、そう答えていました。

「あ、梅田くんね。じゃ、まさるが帰ってきたら電話させまーす」

電話を切った後で、ワイはなんか犯罪をした気分になって
小刻みにぷるぷる震えていた。
ワイ、なんで、今、うその名前言うてしもたんや???
まったく自分でもわけが分かりませんでした、

しかも、なんで梅田なのか。
梅田くんは同じクラスになったこともなく、しゃべったこともなく、
ただ、吉田くんと同じ5組で、なんだか顔が浮世絵の歌舞伎役者みたいなインパクトがあるやつ、
という認識でしかなかったのに、なぜとっさに、梅田です、と言ってしまったのか?

絶対、これは、ばれたらあかんやつや。
隠し通さなあかん。
ワイ、うそついた。
わるいことした。

さて、その日の午後に吉田に会ったら、

「にゃんた、さっき、へんなことがあったんよ。
家に帰ってきたら、ねえちゃんが、
『梅田くんから電話があったよ』っていうけえ、
梅ちゃんに電話したんちゃ。
そしたら、『は?なんでワシがおまえに電話するんけえや。』
っておこるんよ。
じゃけー、ねえちゃんに確かめたら、
たしかに梅ちゃんからの電話じゃったっていうんちゃー。
なんなんじゃろ。意味が分からんちゃー。
もしかして、にゃんたが電話してきたんじゃないよね?」

「いいや、しらんよ。今日は電話してないけー。それはミステリーじゃねー。」

というわけでー。
よしだまさるくん、
もしこれを読んでたら、
覚えてないと思うけど、
あの、小学生のときのミステリー、
「梅ちゃんからのまぼろしの電話」のミステリー。
犯人はワイや。

40年ぶりに解決や!

2 件のコメント

  • 小学生はほんとうに意味のわからないウソをつきますよねw

    解決や!じゃないwww

    あーおもしろい!

  • それはそれは、当時は相当怖かったんですねー!

    でも、わたしもどちらかと言えば吉田くんの姉タイプ!

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