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十八粒目『ジョイのこと⑥』

ワイは重たい学生かばんを、右手、左手、と持ち替えながら、家までずっと走ったー。
走りながら、

「ジョイや、わるかった。
ワイは何も考えてなかった。
ゆるしておくれ。
ジョイが怒るの、当たり前や。
ワイら家族を恨めしく思うのも当たり前や。
むしろ、鎖につながれたのに、それでもしっぽ振って、
にこにこ愛想振りまいとったら、そっちのほうがアホや。
ジョイの態度は、ただしい。
ワイが、完全に間違えとった。
ジョイの気持ちをわかろうとしてなかった。
ジョイの態度に腹を立てて、本当にわるかった。
いじわるして、ほんとうにごめんやで。
ワイが間違えてた。
ほんまにごめんやで。」

そうして家に到着して、門を開けると、
ワイはジョイのいる犬小屋にかけよった。
ジョイはいつものように小屋の中で丸まっていて、
こちらをじろりと見た。

「なんや?走って帰ってきて。
なんかあったんかしらんけど、
散歩とメシだけは忘れんとってやー。」

無表情のジョイの頭に手を伸ばして
ワイはしばらくジョイの頭や背中を、
なでなでなでなでしていた。
そしてジョイにはなしかけた。

「ジョイ、かえってきたで。
今日もひとりでたいくつやったやろー。
ごめんなあ、こんな鎖につないで。
おこってる?
おこってるよなー。
あとで散歩いこうなー。
今日から散歩の時間、ながくするからな。
最低でも一時間はいこうなー。
約束する。これからずっとやー。
ほんまにごめんな。」

そうしてワイはジョイのからだを両腕で包み
「ジョイジョイジョイジョイ」
なまえを呼んだ。

ジョイはきょとんとしとったわ。

「なんや、いつもと感じが違うな。
へんなものでも食うたんか?
散歩とメシだけはちゃんとやってや。」

その日からワイはジョイと一緒に、
夕方から夜にかけて、
ながい時間、散歩にでかけるようになった。

学校に行くとき、帰ってきたとき、
ジョイに会うたびにやさしくした。

「かわいいジョイちゃん、いいジョイちゃん」

といって頭をなでた。

相変わらず、ジョイはきょとんとしとった。

ジョイ、ごめんな。
ワイが、毎日、1時間以上、さんぽに連れて行くようになったとて、
何千回、何万回、やさしい言葉をかけて、なでなでしたとて、
ジョイは一日の大半を鎖でつながれて過ごすことには変わりない。

だから、ジョイはこの先一生、機嫌を直すことはないかもしれないな、と思った。
ごめんやで。
せめて、たくさんの時間、ワイは散歩につれていく。
ジョイを見るたび、やさしくするわー。


それから、1週間以上は過ぎたと思う。
その日、野球部の練習を終えて、いつもと同じようにワイは家に帰ってきて、
門を開けて、ジョイが丸まっている犬小屋に向かおうとした、
その時。

まったく予想してなかったことがおこった。

ジョイが、犬小屋から、ひょいと顔をのぞかせたんや。

それからゆっくり、鎖をちゃりちゃりいわせて、
小屋から出てきた。
それから、ゆっくり背伸びをして、
こっちをみて、こっちに体を向けて、
遠慮がちに、ゆっくりしっぽを振っている。

うれしかったなー。

「ジョイが、ジョイが、あのジョイが、
ワイが、帰って来たら、
小屋から出てきて、迎えてくれた!
ジョイが、ジョイが、
ワイのために、
ワイみたいなもんのために、
わざわざ、小屋から出てきて、
ワイのほうを見て、しっぽを振って、
お出迎えをしてくれましたああああ!」

クララが立ったアアアアア!
みたいな場面やったな―。

その日から、ジョイは、ワイだけでなく、
家族のみんなが帰ってきても、
小屋から出て、歓迎の意を示すようになったんや。

お姉やんもびっくりしてたわ。

「聞いて聞いて、今日、ジョイが迎えにでてきたよ。」

どういう心変わりやろ?
って。

雪解けやー。

(つづく)

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