さて、ふたたびこいぬを迎えに行ってからは
正式にこいぬはうちの家族になったんやー。
もう夜になってもさみしがってなくことはなかったし
元気いっぱいやった。
ジョイっていう名前は
ワイのお兄ちゃんの発案やった。
おすいぬで、色がかなり黒っぽいから、
ちょっと強そうなのが似合うやろー
っていうことやったんかなー。
ワイは
「つな」
っていう名前を提案した。
そのころ国語の授業で
「大江山の酒呑童子退治」の話が載っていて
その登場人物に
渡辺 綱(わたなべ の つな)
っていうのがでてたんや。
小学生やからそういうの好きやんか。
それで
「ワイ、いい名前の案があるで!
つな!
わたなべのつなや!」
っていうたんや。
「これできまりやろ!」
って、自信満々でいうたんやけど
日本史の教師のお父さんが
「ホウ」
といっただけで
他の家族の心には、だれ一人、何一つ、
1ミリもひっかからなかったんや。
そして家族会議の結果、
「ジョイ」にしよう、
ということになって、
ワイも、
「ジョンはイヤやけど、ジョイならええわ」
という多感な少年らしいことをいって
こうしてその瞬間から
この、世にもかわいらしいこいぬのなまえは、
ジョイとなったんや。
ジョイ、ジョイ、と呼んだら、
こいぬはうれしそうにしていたなー。
あのときもし「つな」になってたとしても、
同じようにうれしそうにしてたんかなー。
のちに、高校生になって、
英語の授業の時間やったかなー
何のタイミングか忘れたけど
教室で、年配の女性の先生から
「あんたの家で飼っている犬の名前はなんていうんや?」
って聞かれたことがあって
「ジョイです!」
といったら、
「まあ。もらってきたときに、さぞかしうれしかったんでしょうねえ」
って半笑いで言われたのを思い出したわー。
そんなわけで、それからしばらくの間は
こいぬのジョイと、ワイらの家族は
たいへんハッピーな時期を過ごすんやなー。
ジョイは何をやってもかわいいしな―。
付き合い始めのカップルみたいなもんやー。
かわいくてかわいくて、
すきですきで、しゃーないんやなー。
毎日、家のそばの広場であそんでたー。
そのころは昭和の50年代で、町内にはのら犬がいっぱいおってやな
特に人に危害を与えることもなかったと思うし、
なんとなく共生してたんやー。
すくなくとも、そんふうにワイは思ってた。
ワイら子どもには、なじみの友達みたいなのら犬が数匹おった。
ちゃんと名前もついていたしな。
でも、もちろん犬がキライな子もおったと思うし
のら犬よくない、と思っている大人もおったんやろな。
そう思われるようなことを少なくない野良犬たちはしていたんやろ。
いつの間にか、何年か経つ間に、町内で野良犬を見かけることはなくなていった。
さて、
ジョイがこいぬのころは、まだノラ犬たちがうろうろしてた時期や。
そのうちの一匹に、ミッキーという白い、小さめのオス犬がおったんや。
赤い古い首輪がついていたから、半分飼われていたんかもしれんけど
その辺の事情はだれもようわかってへん。
いつも町内を自由気ままに歩いてたわー。
放し飼いされてたんかなー。ミッキーはうちの庭にもよく来てた。
ついでにミッキーについての思い出話を一つすると、
ある冬の日の朝、起きてみると、
うちの地域では珍しく、雪が積もっていた。
うちの庭も雪が積もってまっ白になっていて、こども心にうれしかったんやけど、
そこにミッキーが、泥だらけの姿でやってきた。
ワイはびっくりして、
「ミッキー!どうしたんや、そんなに汚れて!」
ほんとうに、泥水の中を泳いできたみたいによごれてみえて、びっくりしたんや。
でも、近寄ってみると、汚れていなかった!
いつも通りのミッキーやったんや。
雪があまりにも真っ白なもんで、
その真っ白を背景にしてみると、その対比、コントラスト効果で、
いつも通りのミッキーは泥まみれに見えたんや。
「雪って、ほんまに、まっ白なんやなー」
と感心すると同時に
「ミッキー、きみは、白い犬だとばかり思っていたけれど、
とても汚れていたんだね」
と、ちょっと衝撃やったなー。
それで、ワイはそのとき、俳句を作ったんやな。
うちらの小学校は、種田山頭火っていう、
「自由律俳句」で有名な放浪の俳人さんの出身校ってことで、
学校ではよく山頭火のことを聞かされていて、
「自由律俳句」っていうものになじみがあったんやー。
五・七・五の定型にこだわらない俳句のことをいうんやな。
たとえば
「酔うてこほろぎと寝ていたよ」
「うしろすがたのしぐれてゆくか」
「ふるさとは遠くして木の芽」
とか、まだまだたくさん、よい句があるんやけど
それで、ワイも、
自由律俳句で、こういう句を詠んだんや。
「銀世界が白い犬汚した」
めっちゃいい句ができたと思ったんやけどなー。
だーーーーーーれも
なーーーーーーんにも
感心してくれなかったなー。
さて、ジョイの話に戻ると
ワイと、こいぬのジョイとで、広場で遊ぶ時に、
よくミッキーがきて、
ジョイと一緒に遊んでくれていたな―。
ミッキーは、よいおじさんぶりを発揮してくれていたんや。
(つづく)
2 件のコメント
飼い始めの頃のワクワク感!なるほど、付き合いたてのカップルみたいなふわふわとした感じに似てるかもしれないですね。上手いこと言うねー!ひろちゃん作の俳句、正直な気持ちがストレートに現されて良いと思うな!
銀世界って言葉が素敵ですね!
猫とは違って犬は最初から面倒見がいいのですね!ミッキー良いわんちゃん🐶