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四十九粒目『クリナーズ』

ワイ、はたして、韓国に事務所をもてるのか?
ということに関して、ここ数日来、うーむ、と頭をひねっているんやなー。
とりあえず、来月、8月には、第一回目の偵察にテグに行く予定ですけど。
何年ぶりのテグになるのかな。
なんか、モノレールができてるらしいな―。

そんなこんなで、いろいろ考えをめぐらせている日々でして、
「人生とは何ぞや」
「進むべき社会の在り方とは」
「人々がしあわせに生きられるためには何が必要なのか」
などとかんがえてしまいますねんけど、やっぱり
「ほとんどすべての人間と会うとうれしい」
というのが理想じゃないかとおもうの。
そのためには、「だれとでもすぐ仲良くなる」っていう
そのスキルというか、そんな心がまえになれることがいちばん大事じゃないかと思えてきてるんやな。

そんなふうに考えてみると、なんか、そんなひと、おったな?

ワイが神戸の東灘区の、まったく日の当たらないアパートに住んでいたときやった。
しかも阪神電車の線路のすぐそばで騒音ひどかったなー。
26、7歳ぐらいだったかなー、文学修行の真っ最中やったもんで、かまぼこ工場とか、ホテルのレストランの給仕とか、そんな仕事をして、食べる分だけ稼ぐ、という暮らしをしていたころやな―。

あるひ、ピンポーン、こんにちわー、とだれかが来て、
出てみると、朝日新聞の販売店の営業の人やった。
「新聞どうでっかー」って、訪ねてきたんやなー。
見知らない、三十歳ぐらいの男の人やけど、感じのええ人やった。
いや、いりませんー。ていうたんかな。
それとも、三か月ぐらいは契約したんやったかな。
立ち話をする中で、その人が、
「あれ、野球、やりますの?」
っていうんや。
ワイの部屋の中に置いてあった、野球のグローブが目に入ったんやな。
はい、まあ、ソフトボールとかしますけど、と話が広がって、

「そんなら、こんど、一緒に野球やりましょうよ。ぼく草野球チームつくってるんですわー。
ほんまに、野球しましょうよー。いやーこんな出会いもなかなかないでしょう。新聞なんかとらんでもいいですよ。こうやって、野球好きの人に出会えたのがうれしいっすわー。お仕事は何されてますの?おお。そうなんですか。あなたおもしろいひとですねー。そしたら、知り合いの警備会社の人がちょうど人を捜してたから、そのひとにも紹介しますわ。今度会ってみたらよろしいわ。」

とか、面倒見がええというのか、めっちゃ距離縮めてくるねんなー。
いま考えたら、あの人すごい人やったよなー。

それで、いっぺんだけ、草野球に行ったんやー。
クリナーズっていうチーム名やった。
それ以外はほとんど覚えてないけど、ワイ、ぜんぜん活躍できんかったな―。
代打で出て、キャッチャーファールフライでアウトになったような気がする。
なんかなじめなくて、終始しょんぼりしてたのは覚えているわー。
朝日新聞のおっさんは、なんか半分、監督みたいな感じやったなー。
でもワイも含めてみんなにいろいろ気を使ってくれてたわー。
あのひと、だれとでもすぐ仲良くなる人やったんやろな―。

思えば、その人が紹介してくれたおかげで、ワイは、韓国領事館の警備員の仕事にありつけたんや。
警備会社の部長さんと面接したんやけど、

「この仕事は、まさに、きみにぴったりの仕事やで!
 金のわらじを履いてでも探しに行かにゃならんぐらいの、ほんとうにきみのために用意されていたような、おあつらえ向きの仕事やで、なあー」

って言っていたな―。
「金のわらじを履いてでも」
って何回も言うてたわー。
あのとき、あのひとが新聞購読の勧誘に来て、野球グローブに目を止めてくれて、それがきっかけで、ワイは韓国とのつながりが決定的に色濃くなっていったんやなー。
そうして、その数年後には、テグに行って暮らすことになって、あれやこれやあって、今のこの仕事をしていることにつながっているのだから、
考えてみたら、あの人、名前も忘れたけど、すごいよなー。

その人が、草野球をしていた日に、ぽろっと口にした言葉があったんや。
それ、どういう言葉だったのか、具体的には細かく記憶してないけど、

「なんやかんやいうても、いちばん大事なのは、気にしてくれる人がおることや」

だったかな?

「金があってもたのしくないで。仲間がおって、なかようするのが、いちばんええことや」

だったかな?

「ほんまにわるいやつなんておらんのやし、みんなで助け合って、支え合っていくのがいちばん大事や」

だったかな?

とにかく、その類の言葉を、ぽろっと、言うたんやな。

ワイは、その言葉を聞いたときに、
ああ、このひと、思いがあるんやなあ、って感じたのを覚えている。
もちろん、生まれつきの性格とか、自然にそうできているところもあるのだろうけれど、
意識的に、「こういうのがいいよな」っていう、確信のようなものがあって、
「だれとでもすぐ仲良くなる」を実行しているんやなー、って、感じたのよなー。

顔も覚えていないし、今どこかで会ったとしても、気がつかないやろ。
でも、あの人には、ずっと感謝やわ。

ワイも、初めて会う人に対しても、関心をもって、やさしくして、人とつなげて、
そんなことができる人になって、恩送りしていくわー。

2 件のコメント

  • すごい感動したー!

    そんな出会いがあったのねー♪

    恩送りかぁー、あったかい言葉やねー!

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