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百七十七粒目『ときめきが見えるメガネ②』


山口さんは、ミャーを見るとバターがとけたみたいな顔になって

「ミャーや、おいで―」

と、ねこなで声でミャーを呼び
ミャーはゆったり歩いてきて山口さんにからだをよせて
山口さんはミャーのあたまをなでなでして
のどをなでなでして
ミャーは目を細めてゴロゴロいうていた。

そのとき山口さんの頭頂からは
ピロピロピロピロピロ~と
ハートの噴水が調子よくほとばしっていた。

しかしミャーの頭頂からは
一ミリのハートのかけらすら出ていなかった。

ワイはなんだか気まずくなって

「山口さん、山口さん。
 この、ときめきメガネですけど、
 ネコにも有効なんでっか?
 ネコのときめきも、見えるんじゃろか?」

「もちろん。ねこも、犬も、うれしい、いう情緒は人間とかわりまへん。
 同じようにときめきが見えるはずですわ。
 そのように設計してまんねん。」

「ははあ。でも、いまね、
ミャーは、これ、山口さんにかわいがってもろて
ものすごい気持ちよさそうにしてますけど。
どういうわけか、まったく、ハートがみえません。
これが、精度が低い、いうことなんでしょうなー?」

「そうですねん。おかしいとこありますやろ。
まだまだなんですなあ。
ミャーのときめきをとらえられていないんですわ。
まだまだ精度が低いいうことですわ。
なんらかの誤作動が起こっとるんでしょうなあ。」

ミャーをなでる山口さんからあふれ出るハートの勢いは弱まることがなかった。

「だって、このミャーがですよ
こんなに気持ちよさそうにぼくにのどをなでられて。
こうされるのがミャーは大好きなんですよ。
おお、よしよし。
これでハートが見えないんやからねえ。
『じつは、ときめいてなど、いないっ。』
そんなわけ、ないですからねえ。
ねえー、ミャアー。」

山口さんのあたまからはいっそう勢いを増して
ハートがぴろぴろぴろぴろ~と泉のようにわいて流れ出ていた。
ミャーからはなにも出てない。

これは、おかしい。
この眼鏡が、おかしい。
ぜったい眼鏡がおかしい。

というのが山口さんの主張であった。

「よしよし、おなかがすいたね~。」

いそいそと山口さんはミャーのエサを準備し始めた。

なるほど。
しかし。
精度がわるいとか、誤作動とかではなくて、
この眼鏡、じつはたいへん精度高く、よくできているのでは?
とワイは思ってしまった。

そう思ったからといって、なかなか言いにくいことではある。
しかし、言論の自由がある。
思ったことは口に出してよい、そのはずであった。

「なるほど、『人間の』とめきはちゃんと見るけど、
 『ネコの』ときめきは見えない。
 という、精度の低さ、なんでしょうかねえ?」

とワイは言ってみた

そこでふと、ミャーがご飯をたべはじめたのに目をやると、

「うわ、めっちゃ出てる!」

めしを食うミャーの頭頂からは勢いよくぶばばばばばばば~と、ハートがあふれているのであった。

「ハートしっかり見えますやん。出てますやん。ねこからも。」

「そうですねん。食べているときはけっこうときめきが見えますねん。
ねこは安定しないんですなあ。
ハートが見えたり、見えなかったりしますねん。
なんでこんな誤作動がおこりますんやろ。」

ここで、ワイは意を決して
言論の自由を行使することにした。

「やまぐちさん、でもですね、
そないゆうたかて、ネコの本心なんて、わからへんやないですか。」

「といいますと?」

「イヤじつはその、べつにですね、
ニャーがっていうんじゃないんですよ、
それから、山口さんになでられるのが、っていうんじゃなくてですね、
『ネコ全般』がですね、『人間全般』に、撫でられるのが、
じつは、べつに好きじゃなくて、
えさをもらうために、なんでしょう、『演技』をしていて、
だから、このときめきの見えるメガネは、
実は正確無比なのではないか、と。」

「はっはっはっはー!」

山口さんは、弾かれたように笑い出した。

「ミャーが、ミャーが、ぼくを、きらいなわけがないじゃないですかあ!」

ぼくになでてもらいながらよろこんでいないわけがないじゃないですかああああ!!!!
ああっはっはっはッは~~!ひい~!
と、息も絶え絶えに笑い続けたのであった。

けっさくや、ああ、傑作や、すごい、にゃんたさんは本当に思いもつかない発想をしますな、てんさいや、
とナミダを流しながらわらっているのであった。

そのすがたを見ながらワイは思った。

もし、こころを読める装置というものが、ほんとうに開発されたとして
結局それは、あまり役に立たないのではないか。
そして、こころなんて読めない方が、ニンゲンはきっと幸せなのではないか。

こころなんていうもの自分にすらわからないものではないか。
ましてや他人が、どんな装置を使ったところで
こころを読めるという発想自体がナンセンスな気がするし
どう解釈するかは『そのひとの勝手』にゆだねられるものだろうし
信じればそれが真実になるのだろう、結局。しらんけど。

さて山口さんはひとしきり笑い終えるとナミダをぬぐいながら、

「いや、何も、誤作動いうのはね、
ミャーを見ていうてるだけのことやないんですわ。
まだまだ完成には程遠いんです、この眼鏡はね。
ぼく、これまでに3回ほどね、
フィールドワークに出かけたんですわ。
この眼鏡をかけて
喫茶店とか、ファミレスとかいってね。
ひとびとを観察してきたんですわ。」

「その眼鏡かけてファミレス行ったんでっか?」

そういうのを「蛮勇」いうんやろな。

「にゃんたさん、これ、いっしょに来てみてもうたらわかりますわ。
この眼鏡ね、ほんっまにおもろい装置やし、
ほんでも、まだまだ明らかに誤作動しよりますねん。
なんとかして、もっともっと精度を上げて、改善していきたいんですわ。
そこでね、客観的な意見が聞きたいんですわ。
にゃんたはん、これから一緒にファミレス行きまひょや。
もう一個おんなじ眼鏡ありますねん。」

ワイはほんとうに気がのらなかったが
これも乗り掛かった舟、あのへんなメガネをかけたまま、山口さんと一緒に家を出た。

(つづく)

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