小さなとんかつ屋があって、
みんな、うまい、うまい、いうて、
まいにち行列ができるぐらい、はやっていたんや。
たぶん店主がええ腕してたんやな。
料理は
「素材6割、技術2割、愛情2割」
というらしいけど、
とくに2割の部門では金メダル級やったんや。
そんなある日、店主のともだちがきて、
「おい、しってるか。植物油って、体に悪んやで」
といって
「プーファ悪玉説」を滔々と披露したんや。
店主は
「え?」
とびっくりしたんや。
「ほな、とんかつ食うたら、からだにわるいんけ?」
そのともだちは
「ワイ、がんが見つかったから、しばらく食養生するんや。
とんかつは猛毒やで、食われへん」
というて帰って行ったんや。
店主はしばらく悩んだんやな。
「ほんでも、とんかつおいしいし。
たくさんのひとが喜んでくれてるしな」
ということで
いちばんええ油をつこうて
なるべく新鮮な状態を保って
とんかつ以外の料理にはなるべく油つかわんようにしてやっていこうと決めたんやな。
ほんならな
油の価格があがってきたんやな。
あかんがな。
ほんでも、油の質を下げることはでけへん。
こうなると、
「とんかつ値上げせなあかんがな」
ってなったんやな。
ほんでも店主はな
「かんたんに値上げしたくないわー」
って思たんや。
というのは、店主は幼いころ「長屋」で育って
おカネに余裕のない半生やったんやな。
でも、とんかつが大好きでな。
「たまに、おいしいとんかつ食えたら幸せや。」
と思って生きてきたから
40歳を超えて自分のお店を構えて
とんかつ屋がはんじょうして
2号店も出して、ちょっとええ車にも乗ってみて
ちょっとは小金持ちになってきていたけれど
「ワイはもともとビンボー人や」
という気持ちを忘れたらあかんと思っていたんやな。
ほんで、いろいろ調べてやな
「経費削減できんかな~」
と思いながら、
ちょうど、フライヤーが古くなったから、買い替えようとしてたんや。
フライヤーっていうのはあれや
日本語に訳せば
「油であげるヤツ」
や。
すなわち、大量の油を熱して
あげものをする
油槽調理機器のことやね。
「ウォーターフライヤー」
っていうものがあると
店主はひょんなことから知ったんや。
え?油に水入れんの??
危ないがな!
って思ったけど、理屈を聞いてみれば、
そうか、水って、油より比重が重くて、
分離して、油のほうが浮くやんか。
フライヤーの、
上が油の層になって、
下がお湯の層になる。
そしたら何がよいのか?
揚げ物のかすや汚れが、
下のお湯の層に沈んでいくんやな。
今までのように下までぜんぶ油だったら
フライヤーの底で、あげカスが焦げてしまう。
けれど、下の層が水やったら、
ぜったい焦げ付くことはない。
油がよごれにくい。
油の量が少なくて済む。
つまり、長く、いい状態の油が使えて、
油をかなり節約できる、というんやな。
てなわけで、
「ウォーターフライヤーか。ええかもしれんな」
と店主はおもたんや。
でも、やっぱり不安やろ?
水と油を一緒に熱するんやで。
どうあれ、危険ちゃうか―?
一歩間違えば大事故になるんちゃうかーって。
ほんでな、買う前に、メーカーさんに訪ねていったんやなあ。
実際にどんなものなのか見せてくださいって言うてな。
そしてウォーターフライヤーの営業所にいったら、
敷地内に工場もあってけっこう広くて
対応してくれたのは、
社長であり開発者のひとやった。
説明を聞いていたら
なるほどな、と店主は納得いったんやな。
「ほな、買いますわ」
となった。
「いやーそれにしても、えらい発想ですなあ。
社長さんの発明なんでっか?」
って聞いたら、
「いや、けっこういろんな人が開発して、作ってるで。」
っていうんや。
「まあでも、うちがいちばんシェアとってると思いますな。
外食大手のコンペで選ばれましてん。
それ以来注文が止まりまへん。はっはっは。」
「ほな、もうかってまんなー」
っていうたら、その社長はな、
「いや、ワイはエンジニアやさかいになー。」
っていうんや。
禿げあがった額がきらりと光ったように見えた。
「なんか問題が起こったときに
たいていの人は、言い訳を探しますねん。
ワイはひたすら、答えをさがしますねん。」
社長は工場の端っこのほうにとんかつや店主をつれていった。
そこには同じ形のウォーターフライヤーが
ずら―っと20機ぐらい並んでいた。
でも、ちょっとずつ形が違うんや。
「他社製品の研究でっか?」
ときくと、
「これ、ぜんぶうちの歴代モデルですわ。」
社長の禿げかかった額が、きらーんと輝いたのを店主はたしかに見た。
「もうけた金は、ぜんぶ開発に使います。
改良改良の繰り返しですわ。」
「大手のコンペで選ばれたあともですか?」
「半年に一度モデルチェンジしてますわ。」
「そんなに劇的に改良されるんですか?」
「たいして変わりませんわ。」
「ほんなら大量生産してばんばん売ったらええですやんか。」
「エンジニアはみんなそうや。エンジニアはそういう人種ですねん。」
店主は「料理人もそうかもな」と思った。
でも、みんながみんなそうじゃないやろ。
「いまよりももっとええもんをつくりたくなるんですなー。
もっとよくなると思ったら、それ、やらずにはおれませんねん。
儲けが出たから貯める?そんなのもったいない。
金があれば、もっとええもんつくるために使いますねん。」
そうして、とんかつ屋の店主は、
最新型の、いちばん高いウォーターフライヤーを買うたんやってー。
「旧型の安いやつでもよかったんやけどなー。
でも、ワイは料理人やさかいにな。
一番ええもんを使うて、
一番ええとんかつを提供するんやー。」
で、このすぐあとに、
「とんかつ店で大爆発。原因はウォーターフライヤーか?」
のニュースが流れたら、コントとしては完璧や。
って話。
おわり




