さて、まゆ先輩にはじめて出会ったときのことを思い出しながら調子よく書いてきたけれど、あかん、ここで筆が止まりそうや。あんまり記憶に残ってないねん。でも書くわー。
そのとき、まゆさんと「いろじろ韓国びじん」さんと、一緒に大学の構内をあちこち散策したことは覚えていて、松の木がいっぱい植わっていたような気がするな―。大きな岩がいくつかある場所で、三人で写真を撮ったのは覚えているな―。
まゆさんは年をいえばワイより一つ学年がしたやったんやけど、いつのころからかなあ、先に韓国で暮らしている先輩っていう意味を込めて、「まゆ先輩」っていうようになったんや。
まゆ先輩は、大学で何の研究をしているのかよくわからなかったけれど、彫刻、粘土をしているひとで、名古屋から来たといってた。なんでも地元の駅に、オブジェとしてまゆ先輩の彫刻作品が飾らることになったとか云うてた気がするなあ。だから芸術家や。ワイも将来の自称有望なもの書きやから、同志やんか。しらんけど。
「いろじろ韓国びじん」さんのほうは、なんか、白いシャツに黒いズボンで、長い黒髪を上に結わえていて、鮮やかな赤い口べに、事務職の会社員みたいにピシッとしていたなあ。ネコで言えば、なんか、血統書付きのシャムネコみたいな雰囲気や。まゆ先輩のほうはネコでいうたら、なんやろか、ノラっぽい感じやな。もし多頭飼いで飼われているとしたら「あほの子」とよばれるような活発なネコやろなあ。そのときの服装は、86みたいな数字が水色で大きくプリントされた白いTシャツ、袖のところだけ薄黄色いの、を着ていて、色落ちした穴の開いたジーパンをはいていた、のかなあ。髪の毛は短めであかるめの栗色、だったような。ひうつだけ、はっきり覚えているのは、まゆ先輩、赤いスニーカーを履いていたんや。けっこう履きつぶした、くたくたの赤いくつ。ほんで、なんていうかなあ、サザエさんで言えばカツオやな。そんな感じがした。「いろじろ韓国びじん」さんのほうはタイコさんや。
いろいろとお互いの話をしたとは思うんやけど、なんか、ワイにはまゆ先輩が、まんがの登場人物みたいに思えたな―。ピーターパンみたいというか。童話とか藤子不二雄先生のまんがとかで見たことあるみたいな。子どものころにわくわくして読んだ絵本や、しあわせな感じのゆめを見た時のゆめの中とか、そんな、この世ではない、なつかしい世界から、ポーンと現実にとびでてきたような、ふしぎな感じがしたんやなー。
「あさっての朝に大邱を出発ね。あしたミン先生に市内で会うのは何時?じゃあ、あしたの午前なら私も時間あとるから、近くにシジャンがあるから、韓国のシジャン(市場)っていってみた?案内してあげるよ。」
というわけで、翌日の午後にミン先生に市内を案内してもらう前に、もう一度まゆ先輩と会う約束をして、それからワイはオンス旅館にどうやって帰ったのかなー。ミン先生に車に乗せてもらった記憶はないし、バスに乗って帰ったのかなあ。その日のごはんはどこで何を食べたんやろ?おぼえてないなあ。
(つづく)
百五十四粒目『まゆ先輩との再会⑥テグ1998年6月』





