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百六十五粒目『いやな気持を鎮める神さま』

「わりゃこのくそボケのどカスが!貴様なんかしんでまえ!ぶちころすぞタコが!」

とケメコはハンドルをにぎった両手に力を込めてさけび散らかした。

モカブラウンのスズキラパンの運転席にケメコは一人であったが、
後ろからものすごいスピードでやってきた黒い車に割り込みされて、
脳みそが瞬時に沸騰して、その湯気で頭のふたがポーン!とあいたみたいになったのであった。

しかしそこでケメコは「はっ!」と我に返った。

「いけない、いけない。こうやってあたしはいつもイヤな気分になるのだから。
しかし、あたしが、じゅうぶんな車間距離をとって、マナーよく安全運転しているのに、なんであのカスが、割り込んでくるのか。なんであんなスピード出してくるのか。せまい日本そんなに急いでどこに行く。あたしを抜かして何が楽しい。おしっこもれそうなんか?はようトイレに行かんと死ぬんか?なんやその調子に乗った車。なんで黒なんじゃ。どんな気持ちでその車買うたんや。乱暴な運転して楽しいか?なんやナンバー1234?低能がよろこびそうな番号じゃのう。うんこが。かす。ちきゅうの恥さらし。おまえは息するな。うざいから。空気がもったいねえんじゃ。マナーも何も知らんタコ。爬虫類が。なんでこれまでふつうに生きてこれたんや。調子に乗るな。おかあさんから生まれてきたのが間違い、いや、おとうさんの体内にたねとして生成された時点から間違いだったとわかれ。そんな運転するやつは。幼稚園の入園式からやり直しじゃ。そんな運転するやつは。なるべくはやく事故れ。はやく電柱にぶつかってしんでしまうことによってまちがいだったと思い知れ。そんな運転するやつは。と、思ってしまうよなあ。ああ、神さま、いけないとは思っているんです。でもあふれ出るこの怒りの気持ちと罵詈雑言。神さま、わたしのこの暴れる気持ちをどうにかしてください。くるしいです。おねがいいたします。」

そしたらそこに神さまが現れた

「ケメコや、ケメコや。」

「かみさまですか?」

「そうです。わたしが神さまです。」

「ああ、神さま。わたしの悩みをきいてください。わたしはもうこんな怒りっぽい自分がいやです。いやな気もちになりたくありません。でも、それはあいつがわるいのじゃありませんか。あのタコが。あたしは車間距離をとって安全運転しているのに。平和に、間違っても事故が起こらないように。それを、あのカスが。なにを考えて生きているのでしょうか。あのカスを割り込ませるためにわたしは車間距離を開けていたのではありません。それをあのくそがきが。『ちょっとでも早くいきたい!早くいきたい!』って単細胞な思考しかないから割り込んできて。マナーも何もわからないドチンピラが。地球の恥でしょう。あんなくそやろう。晩ご飯ぬきじゃ。呼吸をするな。地球のほかの生物のための酸素がもったいないです。山口県から出ていけと言いたい。親のかおがみたい。」

「ケメコや、おまえがほんとうにその怒りを鎮めたいと、イヤな気持になりたくないというのなら、わたしのいうことをようくおきき。」

「はい、神さまからのアドバイスをください。心してうけいれます。」

「おまえがなにに怒っているか、わかるかい。」

「わりこみです。または常識のない運転。人より先に行こうとするあのアホのマインド。うんこ。そのような行為全般。人のことを考えない自分さえよければいいというカスマインド。に対してでしょうか。」

「ケメコや、では、こう考えてごらん。例えばさっきの黒い車が、じつはクルマではなかった。大きなダンボールが、強風に舞って、目の錯覚で、クルマにみえていただけなのだ。」

「あれは、車ではなくて、風に飛ばされてきた、段ボールであった。」

「そう。どうだね、ケメコ。腹が立つかね。」

「いいえ、風に飛ばされてきたダンボールなら、はらが立ちませんね。」

「そういうとこやで。」

「そういうことですか。」

「ようするに。おまえ。わかっとんのか。」

「あたしがじっさいは何にはらを立てているのか、ってことですよね。」

「そうや。ケメコ、おまえは運転手に腹を立ててるわけではないねん。問題は相手どうこうではないねん。」

「あたしがはらを立てているのは、あの車の運転手や、そのマナーの悪さにではない、と。」

「そうや。すべてがそうや。おまえ。そういうとこやで。」

「あたしがはらを立てているのは、あたしが勝手に作った、マナーのない、わるい運転手、という、自分の脳内ででこしらえた幻。その幻にはらを立てている、ということでしょうか。」

「そうゆうとこやで、いうてんねん。」

「はあ、そういうことなんでしょうか。でも黒い車・・・」

そういうとこっちゃあやあああああああああ!!!!!

いきなり山口弁になって大声でブチ切れて神さまは消えてしまった。

ケメコはかみさまのことばをたいせつに心に刻んでおくことにした。

(おわり)

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