「たまっていた水がほぼ消えていますので。
点滴の治療を継けましょう。」
手術前日の検査で、劇的に症状が好転していると認められて、一転、手術は中止になったんや。
母はよろこんでいたな―。神さまに感謝していたー。
それから、ワイはみるみる回復していった。
少しずつ食べれるようになっていった。
母は早く回復させたいという思いからか、食べれば栄養がついて早く回復するという理屈なのか、近所の町中華料理屋から餃子を買ってきてくれて、
ワイはそれも少しずつ食べれるようになった。
回復してくると、話もできる。6人部屋の病室だから、近くのベッドの人と話をするようにもなった。
「あれだけ元気がなかったのに、手術が中止になったとたんに元気になったな。現金なやっちゃ」
べつに手術がなくなったことで元気を得たんやないで―。元気になるぐらい回復したから手術せんでよくなったんやー。
ちょこちょこお見舞いに来てくれるボクシング部の人たちとも談笑できるようになってきて、先輩のカワミさんなんかは差し入れにいかがわしい本を持ってきてくれた。それは病室に置いておけないし、藤井に持って帰ってもらった。
前にも言ったけど、だれかがお見舞いに来てくれるのが、ほんとうにうれしかった。だれが来てくれても、ひとしく本当にうれしくて、ワイは退院したら、「お見舞い魔」になって、知り合いが入院したら片っ端からお見舞いに行くようにしよう、と思った。
元気になってくると食欲が戻ってきて、病院食が、質素なものなのだけれど、楽しみで、楽しみで、仕方なくなってきた。
ごはんの時間になると、「お食事ですよ~」という声とともに、看護婦さん(と当時言ってた)が、ゴロゴロとワゴンにのせた食事を運んできてくれる。
その「お食事ですよ~」の声が聞こえると、うれしくてうれしくてたまらない。
うちで飼っていた犬のジョイは、エサをもっていくと、小躍りしてよろこんでいたものだが、その気持ちがわかる気がした。ワイはジョイのように、「お食事ですよ~」の声を聞くと、しっぽを振って、ハアハアよだれを垂らしながら、お食事が目の前に配られるのを待っていた。
もし、そのとき看護婦さんに「おすわり!」「おて!」と言われたら、躊躇なくやっていたやろなー。
それから、母が時々買ってきてくれる町中華料理屋の餃子がおいしくて、何回も買ってきてもらったな―。あれ、おいしかったなー。あのお店、今はもうないんやろな―。もしまだやっているんだったら、あの餃子を食べるためだけに守口市まで行きたぐらいやわー。
さて、毎朝、院長先生が「おい、どないやー」と言いながら病室を回る。それから、看護婦さんに、採血されたり、点滴をつけかえてもらったりする。頭痛はどんどん和らいでいって、看護婦さんとも話ができるようになる。
「大学まで行って、なんでボクシングなんかしたんや」と言われたとき、ワイは、
「それは、男だったら、強くなりたいから!」
と答えた。
実は、これは受け売りで、ワイが高校生の時に大好きだった日本チャンピオンの高橋直人選手が、テレビのインタビューでボクシングを始めた動機を聞かれて言っていた言葉をパクったものであった。
ワイは六人部屋にいたけれど、窓際のほうの二人とはほとんど話したことがなかった。赤いバンダナをまいている、やせた、若い男性は、聞くとワイが受けるはずだったのと同じ手術をして、つまり頭に穴をあけて、皮膚の下におなかまで管を通す、みたいな手術やな、その手術からの回復を待っているところだという。
その赤バンダナくんは、だから、これから先の人生、きっと激しい運動はできないだろうし、多少なりとも後遺症を抱えて生きてゆくのだろう。また、ほかのベッドの人も、生まれつき体が弱かったり、怪我で長いあいだ入院していたり、という話は小耳にはさんでいた。
だから、ワイは勢いで、「男だったら、強くなりたいから!」と言ってしまったけれど、すぐにその赤バンダナくんのことや、病室のほかの人たちのことが気になってしまった。
ああ、へんなこと言うてもうたな―。
(つづく)
2 件のコメント
大ドンデン返し、やったねー!
何かそんな気がしたんよ!
回復してホントにホントに良かった〜!
バンザイ!バンザイ!バンザーイ!
このメールに返信して、コメントを残すこともできるの⁉️ほんまかい⁉️やってみよう👌🏻
な、なんで⁉️手術なし⁉️
何はともあれやったね‼️
そんな万全の体調じゃないのに、自分の一言が気になるなんて、大人ですなあ〜
お食事ですよ〜
ご飯を食べるのって人間にとっていや、生物にとって、とっても楽しみなことなんですね。
依存するの怖いから食事以外にも楽しみを見つけないと、、、
こんなんでホンマにコメントできるんかいな、、、
↓↓↓
やっぱりできんやった( ˘•ω•˘ )