Home / 小説(創作) / 九十四粒目『重複』

九十四粒目『重複』

あかり:やってもうたわ。

権六: またか。

あかり: やれやれ、ワイも、ぼけてきたなあ。

権六:こんどはなにをやらかしたんや?

あ:いや、雑誌を買うたんじゃ。

権:雑誌を。なんの雑誌を。

あ:『おしゃかさま時代』。

権:おしゃかさま時代?

あ:夏の特大号。

権:そんな雑誌あんのか。

あ:同じのを、まちがえて、2回、買うてもうた。

権:『おしゃかさま時代』をか。

あ:まえに買うたやつは、『エスさま通信』じゃと思いこんでたんや。どわすれしとったなあ。

権:ようわからんが、むかしから読書家やな、きみは。いろんなジャンルを読んどるなあ。

あ:ワイもぼけてもーたな。重複して注文してもうたわ。

権:ん?なんて?

あ:重複して注文してもうた。

権:ふっふっふ。

あ:ん?

権:ふっふっふ。

あ:え?

権:ふっふっふっふ。

あ:どした。

権:きみ!!それはいかんよ。読書家でありながら!

あ:はあ?

権:わしはね、あきれた!!いや、もっといえば、おこっとる!!うん、情けなくて、かなしんどるわ!!

あ:え?

権:「ちょうふく」です。

あ:ん?

権:「ちょうふく」です。

あ:ああ。ちょうふく。よみかたのことね。ワイは「じゅうふく」、いうたな。

権:「ちょうふく」、です。

あ:ああ、うん。「ちょうふく」、とも読むし、「じゅうふくと」、も読むんじゃろう、それは。

権:「ちょうふく」、です。「ちょうふく」、が正しい!

あ:そうか。

権:「ちょうふく」、が正しいのです!

あ: わかった、わかった。

権:はあ。この言葉の乱れ。大和民族は滅んでいくのだなあ。

あ: あ、なんか腹たってきたな!それじゃあ、ひとつききたい。正しい、正しい、いうけれど、だれか決めたんじゃそれは。「じゅうふく」「ちょうふく」どちらにも読んでかまわんじゃないか。だってどちらにも読んでるもん。世間一般で通じるじゃろう。もともとは、「ちょうふく」が正しい読み方、ということかもしらんけど。ええやんけ。どっちでも。

権:「ちょうふく」、が正しいのですううう!

あ:わかった、わかった。「ちょうふく」、が正しい。あんたが正しい。「じゅうふく」、とよんだワイは、間違い。うんうん。なかしまみかさんをなかじまみかさんいうたぐらいの過ちじゃ。それでええか。

権:困りますねえ。言葉はちゃんと使ってくれませんと。困ります。

あ:あんまり、どっちでもええようなきがするけどな!そんなもの!

権:いいですか。「重」という漢字の読み方は、意味によってちゃいまんねん。「重い」という意味のときは「じゅう」とよみます。「かさなる」とか、「大切」とか、そのような意味のときは、「ちょう」と読むのです。

あ:なるほどな。 きみは知識があってよろしいな。 意味によって、読み方を変えとるんじゃな。「重複」の場合は、かさなってるという意味じゃから、「ちょうふく」とよむのが正しい。なるほど。その知識があるから、なまじその知識があるから、きみは、「まちごうとる!」と思うて、気持ちが悪いわけじゃな。ワイが「じゅうふく」と、よんだら、「正しくない読み方をしている!」、と、心配して、まるで肛門がかゆうてかゆうてたまらんみたいに、落ち着かなくなって、注意してくれとるんじゃな。

権:そうやで!そうやでえ!これ、間違って読んでいる人がひじょうに多いのです。だから!だから、かしこい私がですね、これは、かしこいものの務めやね。世のバカをただしてあげるというね。蒙を啓くというかね。あなたのような、なんというか、ばかにね、正しいことを、教えてあげないとなりませんからね。ばかをほっといたらあきまへん。どろぼうを放置するようなもんですわ。 こういうことをうやむやにしていては、世の中、よくなりませんからね。 言葉の乱れは、文化の乱れ、生活の乱れ。こんなことでは、そのうち、国が滅びますよ。このにっぽん国は。大げさではなく。わたしは、厳しく指導しますよ、これ。

あ:わかったわかった。落ち着きなさい。「ちょうふく」、が正しい読み方なんじゃな。うんうん。

権: わかれば、よろしい。

あ:しかし、またひっくりかえすようじゃが、そんなにムキになることあるのかな。実際には、「じゅうふく」とよんでるのをよく聞くけどな。そんなにおかしいとも思わんけどな。ワイはどっちでも気にならなんけどな。そう考えると、きみは、なまじ知識があることによって、しんどいわなあ。しんどいじゃろう。そんなこまかなことが、いちいち気になって、身もだえして、きゃんころきゃんころ、吠えてしまうんじゃからなあ。

権:なにをいうか。きみはね、正しい言葉づかいというものが、どれだけ大切なことか、わかってないのや。伝統。正しい日本語。その大切さ。学がないというのはおそろしいわ。ほんまにほんまに。

あ:そうなんかな。あ!しかし、きみ、大事な部分を忘れちょったぞ。

権: 大事な部分?

あ:そうじゃ、一番大事な部分をわすれちょったで。それは、じゃ、それは、本人がどう考えとるか、その部分がいちばんの問題じゃろう。

権:本人?

あ: うん。本人の気持ちじゃ。

権:本人の気持ち?

あ:そう、重複本人の。

権:重複本人の?

あ:そうじゃろう。本人がどう考えておるか。そこが一番肝心なとこじゃ。重複本人が、どう読まれたいと、思っておるのか。

権:ちょっとまて。重複本人とはなんのこっちゃ?

あ:重複本人の気持ちじゃないか。わかりやすく言うてみようか?ちょっと長くなるかもしれんが。こういうことがあるわけじゃ。ワイの友達にな、「大明」という名前のやつがおる。これが、自称「だいめい」というておってな、それで、みんな、だいめいだいめいと呼んでおるんじゃが、これがな、本当の読み方は「ひろあき」じゃそうな。しかし、本当の読み方ゆうてもやね、この大明が生まれた頃っていうのは、まだ役場にパソコンやらそういうのがない時分じゃから、戸籍謄本ゆうのは、ぜんぶ手書きじゃったんや。紙にな、筆やらペンやらで書いて届け出て、お役所の担当者さんが、手書きの文字で書きとめるわけだ。だからその担当者が字がへったくそな場合は、読まれへん、とか、ありもしない漢字が書いてある、ということもふつうにあるわけや。それでな、そのとき、漢字だけで記録されて、読み仮名は記録されないんじゃ。だから、漢字だけしかないのだから、ほんとうの読み方なんていうのは、 ないっちゃ、ないわけだ。本当の読み方を知っているのは、名づけて届け出た親だけ、ということになるわけや。そりゃあ、親はじゃね、「ひろあき」のつもりで名づけたわな。最初はね。けれど、大明本人がもの心ついてからじゃね、「ひろあきはいやじゃ、その響きはすかん、むしずが走るんじゃ。たのむからやめてくれ、だいめいにしてくれ」というてじゃね、親も、それじゃあ、ということで、「だいめい」とか、「だいちゃん」とか呼び始め、ともだちもみな、だいめいだいめいとよんでいる。そしたら、この場合は、本来の読み方は「ひろあき」かもしれないが、大明本人にとっては、「だいめい」とよばれるのが、ただしいということになるだろう。このように、本人がどう読んでほしいか、それが一番重要じゃないか。たとえばじゃね、ワイが大明にむかって、「おい、だいめい」と呼びかけた時にじゃね、そこへきみがしゃしゃりでてきてじゃね、「ふっふっふ。ふっふっふっふ。きみ!!わしはあきれとるよ!!いや、おこっとる!!かなしんどる!!ひろあき、です。ひろあき、が正しいのです。正しいのですううう!」とかいうたとして、それはきみ、大明本人はとても納得せんじゃろう。それは余計なおせっかいじゃ。無粋な話じゃ。だいめい、でいいじゃないか。本来のよみかたがどうであれ。本人がそういうとるのだから。みんなそう呼んでいるのだから。外野は黙っとれ。ということになるだろう。」

権:だから、きみは、なにをいいたい?

あ:だから、重複、もじゃね、これだけじゅうふくじゅうふく読む人がおるいうことはじゃね。

権:重複本人は、「じゅうふく」と読まれたがっているのかもしれない、と。 本来の読み方は「ちょうふく」であっても、 「じゅうふく」でいいじゃないか、と、そういいたいわけかきみは。

あ:そうじゃないか。なあ。

権:それ、だれか聞いてきたやつがおるんか。

あ:なにを。

権:重複本人の気持ちを。

あ:だから、それを聞かなわからんじゃろうと言うているんじゃ。

権:重複本人に気持なんかあるかい。ていうか、重複に本人も他人もあるかい。

あ:まあ、それはともかく、ワイはほんとにぎもんなんじゃが、「ちょうふく」と読むのが正しいときみはいうが、それはだれが決めたんじゃ?すくなくとも法律上は、重複は「ちょうふく」としか読んだらいけない、というきまりはあるまいで。それで処罰を受けることもあるまいで。

権:法律の話にするかあ?よろしい。法律がないのなら、法律を作ってしまえばええねん。罰金でもとられるようにしたらええねん。間違った読み方をするようなやつは取り締まったったらええねん。だれが決めたか?それはわしは知らん。知らんが、「ちょうふく」が正しい読み方なのは間違いないのだ。チャットGPTさんに聞いてごらんなさいよ。「ちょうふく」が正しい、とこたえてくれるからね。正しいことがわかっているのに、正しいことに沿わないのは、天下の道理にあわんからね。

あ:なるほど。わかった、わかった。きみは、きみの思うように生きなさい。そのように生きたらええ。漢字の正しい読み方の番人となって、きみのいう世直しの先頭に立つがよかろう。

権:そうやって生きますよ。言われなくとも。

あ:「捏造」は「でつぞう」やで、と、そんなことを布教しながら生きたらええ。

権:え?なんて?

あ:「捏造」は「でつぞう」、そんなことを訂正していくんやろ、きみは。

権:え?「捏造」って、ありもしないことを、でっちあげること?

あ:そうじゃ。

権:それは、読み方「ねつぞう」で、おうてるやろ。

あ:ん?ちがうということやけど。「ねつぞう」って読み方は、本来はまちがいで、「でつぞう」って読むのが正しいらしいで。ワイはそう聞いてるで。

権:えー????うそだうそだ!「捏造」は「ねつぞう」やろ?

あ:正しくは「でつぞう」と読むということじゃで。それを、きみの言うところのバカたちがな、「ねつぞう」って読みはじめて、そっちが慣用化したっていうことやで。ようしらんけど。

権:そんなん、うそや。だれがきめたんや。

あ:チャットGPTさんに聞いてごらんなさいよ。

権:ちょっと待ってよ、調べてみる。えー?。。。わー、ほんまや。「本来の漢音読みでは『でつぞう』と読むのが正しい形になる。」はああああ。「でつぞう」がほんとうなんや!ガーン。。。

あ: 正しい日本語。その大切さ。言葉が乱れたら、ばかがふえて、このにっぽん国はほろびるらしいんですけど。

権:しらんかった!まじかよ!

あ:間違った読み方をするようなやつは罰せられる法律を作らなあきまへんな。

権:しかし、きみ!!

あ:なんでしょう。

権:これに関してはさすがに

あ:さすがに?

権:捏造本人の気持ちがいちばん大事やで!

タグ付け処理あり:

2 件のコメント

  • もののけ姫に出てきそうな登場人物の名前ですわね。

    重複警察いますよね〜

    分かればよくない?と思っちゃいます

    人の言葉を否定する君はそんな偉いん?と思っちゃう

    医療系ではじゅうふく

    ビジネスではちょうふく

    らしいですけど…

    死ぬほどどっちでもいい。人によって言うこと違うし。正さんと死ぬんか?

えいちゃん へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です