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五粒目『マサヤとシンヤ③』

「おまえがワシの弟を泣かしたんじゃの?きのう」

マサヤがワイにそういった。
ワイも、ゆっくんも、固まっとる。

「泣かして、かべに何べんも、ぐりぐりやられたんじゃろ?」
マサヤがシンヤのほうを見た。
シンヤはコクリコクリとうなずいた。

マサヤはワイのほうに向きなおり、
両の手をグーににぎって、肩をいからせて

「おまえ、年下のもんをいじめてもええんか。
 シンヤがなんかおまえに悪いことしたんか?」

そしたらシンヤが食い気味に
「なんもしちょらん」

マサヤはワイをまっすぐに見て

「おまえにきいちょるんじゃ。
シンヤがなんかわりいことしたんか?」

ほんならワイがこたえたわ。
「しちょらん」
って。
ほっそい声で。

「じゃあ、シンヤにあやまっちゃれ。」

ワイはシンヤのほうをむいて
「ごめん」
といった。

「シンヤは何回もヘイにぐりぐりされたんじゃ。
シンヤ、何回ぐらいやられたんか?」
マサヤが言うと、シンヤは

「10回ぐらい」

「そんなにやっちょらん、3回ぐらいじゃ」
とワイが気ぜわしく反論したが

「シンヤがやられた分だけ
 いまからワシがおまえをなぐる。
 それで許しちゃる。
 10回なぐらせろ。ええか。」

「...わかった」

中空から見ていて、わいはびっくりしてた。
えー、こんなやり取りがあったんや。
そりゃそうか。
弟をいじめたやつだからといって
どんな奴かわからないのに
いきなりなぐりかかることはないか。
マサヤにしたら
弟が泣いて泣いて帰ってきて
はなしをきいてみて
おれがやりかえしちゃるーってなって
でも、お父さんやお母さんもおったやろ。
まあまあ、まちなさい、となだめられて
「シンヤが悪いことしたからじゃないか?まずはそこから相手にたしかめなさい。
それで、何もしてないのにシンヤをいじめたっていうんなら、じゃあ、あやまれ!っていってやれ。
それでもあやまらんかったら、弟がやられた分やり返すぞって
向かっていきなさい」
みたいな指導があったのかもしれないなー。
そうやったんやなあ。
ワイ、いきなりなぐられたわけじゃなかったんや。
なんか、筋道立てて、罰を受けるみたいにして
10発なぐると決めて、なぐられたんやなあ。

などと思いを巡らせているうちに
マサヤがワイに向かって
助走をつけて、大きく振りかぶって
ああ、これは記憶どおりやな―。

「ふーん!」
 どーん!!
「いーち」

ああ、そうやったっけ。
マサヤは10発を、数えながら、なぐってきたんやなあ。
なぐるマサヤ。
なぐられるワイ。
見守る、シンヤと、ゆっくん。

「ふーん!」
 どーん!!
「にー」

けっこう思いっきりなぐっとるなー。

「ふーん!」
 どーん!!
「さーん」

ワイ、よう耐えとるなあ。

「ふーん!」
 どーん!!
「よーん」

大丈夫か?ワイ。

「ふーん!」
 どーん!!
「ごー」

あ、おなかに入った?

「ふーん!」
 どーん!!
「ろーく」

あ、効いてる。

「ふーん!」
 どーん!!
「しーち」

耐えろ、ワイ。

「ふーん!」
 どーん!!

「ひろくん、なくな!!!」

 どーん!!
「きゅー」

「ふーん!」
 どーん!!
「じゅう」


「つぎ、ワシのおとうとをいじめたら、また、なぐるけえの。」
といいのこして
マサヤとシンヤは立ち去っていった。

......

ゆっくん。
ワイ、わるかった。

実際の
「ひろくん、なくな!」
をきいたら
なんか
ありがとうって
こころから
思ったわー。

ゆっくん
いまなにしてるんや?
四国のほうにおるってきいてるけど。
見る影もないおっさんになってるんかなあ。

ゆっくん、あいたいなあ。

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