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六十二粒目『入院①』

病院に来た母はなんか小さな簡易ベッドを出してもらって、
ワイのいる6人部屋の病室で一緒に寝泊まりしてたわー。

ワイは何日もなにも食べれず、頭痛にうめき声をあげているー。
ずっと点滴されたまま、ベッドに横になって過ごしたなー。
あ、トイレはなんとかかんとか自分で歩いて行ってたような気がするー。

母は、病院の近くに中華料理屋さんがあって、そこでごはんたべたりしてたらしいわー。
「水がまずい」ってびっくりしてたわー。
母は信仰心が篤いから、お祈りして、「浄霊」をしてくれていたわー。

ワイは何も食べずにベッドに寝たままやから、数日たつと、やせこけてきて、ひげが伸びっぱなしで、
痛みにうなされているし、見るからに死にそうやったんやろな―。

一度、学部の友人の、いりあくんと丸尾くんが、ワイが入院したのを聞き付けて、わざわざその守口市の病院まで、お見舞いに来てくれたんやけど、退院した後で聞いた話やけど、ワイの様子を見て、
「あ、これは、まもなく死ぬ人や」
と思ったらしいわー。
ろくに会話もできる状態ではなかったからなー。
ふたりとも神妙な顔で「ほなまたなー」いうて、そそくさと帰っていたけど、
「あれはもうだめかもわからんなー」いうて、ふたりでくらーい気持ちで電車に乗って帰った言うてたなー。

ボクシング部の人はちょこちょこお見舞いに来てくれていた。
ワイはホンマにいちばん苦しいときで、ほとんど話すこともできなかった。

でも、ワイは、ホンマにうれしかったんや。
会いに来てくれることが。
だから、その時決めたんや。
これから、ワイが退院して、知り合いが入院することがあったら、
ぜったいお見舞いに行こうって。会いに行こうって。

一週間ほど過ぎたころには、まだ寝たきりではあったけれど、少しずつはましになってきていた。
まだ何も食べられなかったけれど、リンゴジュースとか、ひとくちふたくち、飲むようにはなってきたんじゃないかなー。
痛みをこらえきれずにうめき声をあげることもなくなってきたし、痛み止めの座薬を入れてほしいと頼むこともなくなってきた。耐えられるぐらいの痛みにはなってきていたんや。
少しは会話するこもでき始めてきたのかなー。

それで、再検査の日が来た。
点滴の薬が効いているのかどうか、CTスキャンで検査するんや。
もし回復がみられていたら、手術の予定は中止。点滴の治療を続ける。
でも、回復が見られなかったら、まったなしで、手術決行や。
だから、だいじな検査やな。

もういっぺん、あのCTスキャンのベッドに寝かされて、頭の輪切りの写真撮られた。
少しはよくなってるんじゃないかなーって、期待していた。

検査の結果が出て、

「脳にたまった水が、ぜんぜん引いていません。点滴治療の効果が見られません。
 治療方針を、手術に切り替えましょう。」

って決まったんやー。

ワイ、まだろくに動けもしない状態だったから、
ああ、そうでっか。っていう感じやった。
楽になるのなら、頭に穴開けるのでも、皮膚の下に管通すのでも、
どうぞ、やってください。
っていう感じやった。

手術が決まって、翌日、ボクシング部のみんなが、大勢、病室に来てくれたわー。
十五人ぐらい来てくれたんちゃうかなー。
狭い病室に、なんか壮観やったな。ありがとうなー、みんな。
やっぱり、頭に穴開ける、いうので、みんなビビってたらしい。
みんなが暗ーい顔して並んでいるのを見て、
「なんか葬式みたいやなー」とおもって、ちょっと笑っちゃった記憶があるんやけど、
どうやったんやろ。誰かがそう言って、その場の緊張がちょっとゆるんで、みんなで笑ったんやったかな。

ひとつ、よく覚えているのは、帰りがけに、あの、あほの藤井が、ワイの寝ているベッドに近づいてきて、「わたなべ」って声をかけてきたんや。

「わたなべ。大丈夫や。毛え抜くようなもんや」

あいつなりに、精一杯、勇気づけてくれたんやな―。

そんなに難しい手術じゃない、ということやったけど、
しかし藤井よ、さすがに「毛を抜くようなもん」ではないやろ。
頭に穴開けるいうてんのに。

やっぱ、おもろいな、藤井は。
アホやからな、藤井は。
ほんで、やさしいな。ありがとな。

ワイは覚悟を決めていた。
母はやっぱり心配そうにしてたな。

あ、それから、その病院の目の前に喫茶店があったんやけど、そこが当時世界チャンピオンになりたての、プロボクサーの辰吉丈一郎さんのお嫁さんの実家だということで、辰吉さんもちょくちょくそこに見えてたという話で、手術になったら、辰吉さんがお見舞いに来てくれるようにお願いしてみようっていう話も出ていたみたいや。

手術したら、辰吉さんがお見舞いに来てくれるんかー、それはアツいなー、悪いことばっかりじゃないな―、って思ってた。ワイ、辰吉さんが世界チャンピオンになった試合は守口市民体育館で生で見てたからなー。

そんなわけで、手術の前日になり、最終検査で、またCTスキャンで写真を撮ったんやー。

(つづく)

2 件のコメント

  • 沢山のお見舞い、元気出るし有難いね〜。

    最終検査で手術しなくて済むような大ドンデン返しがあることを!

  • ひーーーーーん!

    こわいよーーー!

    私は歯医者さん以外の病院は断固として行かないマンだけど、すごく痛いと頭に穴開けても皮膚の下に管通しても煮るなり焼くなり好きにして!ってなっちゃうのですね、、、。

    そうなるほどの痛みいやや、、、

    いっそ〇して、、、

    頭の輪切りの写真

    ↑毎回これオモロすぎ

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